この作品は、まるで漫画のように見える。それもそのはずで、これは実際に漫画の一コマを拡大してつくられている。
リクテンスタインは、個性的表現に異義を申し立て、日常性や大衆性をとり入れた。「私の理想は誰も壁に掛けることができないくらい俗悪な絵画をつくり出すことであった」と彼は言う。既存の漫画を拡大することは、この作家が画面を創造することを始めから放棄しているのではないか、と思わせる。事実そう思わせることはポップアートの一つの意義なのだが、それだけでなく、彼は原画に対して微妙だが重要な変更を加える。形は太い黒の線で単純化され、色はほぼ三原色に限られる。そして原画では目立たない印刷物の小点をわざと強調して描き加える。個性よりも大衆性を取り上げた彼の作品は、かわいいがどこかいかがわしい。模倣し引用するということを活性化しながら、したたかに、彼自身の個性を示している。(友井伸一「文化の森から・収蔵品紹介」讀賣新聞1989年09月06日掲載)