カップを手にした裸の女性が、大きなたばこの箱に腰をかけ、ひじをついている。こちらを向いている女性の表情から、何らかの感情を読み取ろうとすることは難しい。たばこのパッ
ケージには、一見広告ポスターかと思うほどあからさまに、商品名が書き込まれている。情報社会の到来を反映したポップアーチストたちの一人として、
メル・ラモスは活躍してきた。彼は、女性のヌードと、ありふれた日用雑貨品にとりわけ関心を示している。崇高なものであった女性の裸体は、卑俗さへと引き下げられる。たばこのパッ
ケージは人間の等身大程にまで拡大される。それらのものは、虚構だとはいえ、現に在る、という強烈な印象を与えるだろう。しかしだれに対しても、おそらく表情を変えないであろう女性が、既製のたばこと同居する姿はどこか寒々しい。それを彼は大胆な構図と、いかにもアメリカ的な明るい色彩によってドライに仕上げている。(友井伸一「文化の森から・収蔵品紹介」讀賣新聞1989年12月06日掲載)