作家名:
難波田龍起
制作年:1984年
技 法:油彩 キャンバス
難波田は日本を代表する
抽象画家の一人だが、
抽象的な表現を手がけたのは予想に反してかなり遅く、40歳代も半ばを過ぎてからである。難波田が若いころ、彼の周辺ではヨーロッパからの影響を受けて
抽象的な表現を試みる者が多かったが、このような風潮に対して「自分で
抽象をはっきりつかめないのに、形式的に
抽象絵画に入るのはいけないことだ」と考えていたという。79歳の時の作品「不思議な国A」は細やかな形が抑えられた色彩で、一つひとつ丹念に描き込まれ、静謐(ひつ)で深い詩情をつくり出している。時流に流されることなく、自分の目で確かめて獲得した
抽象表現がこの作品によく表れている。難波田は、早稲田第一高等学院の学生だったころから、詩人・
高村光太郎と親しく交わり、自分でも文学を志すことがあったというが、画面にあふれる詩情はこのことと無縁ではないだろう。(江川佳秀「文化の森から・収蔵品紹介」讀賣新聞1988年09月06日掲載)