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こいそよざくら 小磯夜桜
東京で生まれ盛岡で育った平賀敬は、子供のころ、家にあった油絵を見て、子供心にこの世の中が単純でないことを感じたと言う。こんな昔のエピソードにうなずけるところを、彼の作品は持っている。降るような夜桜の下で、酒宴をはる人々がいる。花びら一枚一枚を細密に描いた桜の華麗さに対し、身なりは神士淑女とも言える人々は、仮面に似た無表情さである。しかも酔態はみだれている。ある文学者は、彼の作品に、「遊楽のさなかの孤独」を読み込んでいるが、確かにここには、単純でない人間模様が秘められている。十年近いフランス留学の経験を持つ平賀は、浮世絵を数多くスケッチして学ぶなど、日本の伝統的な形やモチーフも自分の作品の中に溶かし込んでいる。「小磯夜桜」は、そんな彼の造形的な追求と現代の人間存在の追求とが合致したところで生み出された作品と言える。(森芳功「文化の森から・収蔵品紹介」讀賣新聞1989年04月26日掲載)
カテゴリー:作品
抽象とは?【 美術用語 】 語源はラテン語のアブストラヘレ。対象の構成要素のうち、或るものを他から切り離して、ひき出すこと。絵画や彫刻においても、対象の本質的要素を選び出して描写する点において、多かれ少なかれ抽象の作用が含まれるが、美術上この概念が特別な意義を持つようになったのは、1908年にヴォーリンガーが「抽象と感情移入」において、芸術の根本衝動のひとつとして抽象衝動をあげ、これによって原始民族や東方の諸民族の非抽写的な美術を正当に評価しようとしたことと、1910年にカンディンスキーが、初めて対象的事物を描かない絵画を発表し、1912年には「芸術における精神的なもの」において絵画への道のひとつの極として純粋抽象を論じたことに始まる。これ以降、外的対象的世界を描写しない作品が次々と現われ、非具象(ノン・フィギュラティフ)、絶対、非対象、非再現などと呼ばれたが、最も一般的な呼称として抽象が普及した。また、抽象の出現により、それに対抗して再現的な表現を総括するために具象の概念が使われるようになった。 |
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