作家名:
三木富雄
制作年:1972年頃
技 法:アルミニウム
二十歳のころ作家活動を始めた
三木富雄は、十年前に天逝(ようせい)するまで、耳を主なテーマとして制作を続けた。なぜ耳にこだわり続けたのかは、よくわからない。ただ生前、三木は「耳を選んだということ、そのこと自体が大切なのだ」と語っている。三木のつくった「耳」には一個の耳を取り上げた彫刻や、いくつもの耳をならべた
レリーフ、時には切り刻んだ耳などさまざまなバリエーションがある。美術館が収蔵した作品はそれらの中でも比較的大作の一点である。三木が美術界に登場した1960年代は、熱狂的な雰囲気の中で、実験的な作品が次々と発表されていた。現在の視点から見ると、当時の熱狂とは、単なるアイデアの競争にすぎなかった側面もあり、現在も美術作品として顧みられる作品は多くない。しかし、三木の一連の「耳」は今も美術作品としての価値を保ち、見るものに快い衝撃を与え続けている。(江川佳秀「文化の森から・収蔵品紹介」讀賣新聞1988年07月05日掲載)