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あみうつひと2 網打つ人 - II
木版画としては珍らしく大きな画面に、水辺で網を打つ人の姿が墨一色で刷り上げられている。画面のいたる所に彫刻刀の跡が残り、黒い塊のような量感は荒けずりで力強い。現代人が忘れていた土俗的、原始的な感動を呼びさまし、何か悲愴(ひそう)感をおびた物語の一節をほうふつとさせるかのようだ。現代の版画技法の発達は目ざましく、精微で色彩豊かな作品が次々と創られている。小ぎれいでソツなくまとまった作品があふれているといっても過言ではないだろう。ところが磯見はこのような風潮に背を向け、小細工のきかない杉板を使った作品を制作している。また現代美術は文学生を排除する傾向にあると言えるが、そのような中にあって磯見の象徴的とも言える精神性、文学性豊かな作品は異彩を放っている。創作版画の原点への回帰であり、いささか閉塞(へいそく)状況に陥りつつある現代美術へのアンチテーゼだと言えるだろう。(江川佳秀「文化の森から・収蔵品紹介」讀賣新聞1989年08月09日掲載)
カテゴリー:作品
孔版とは?【 美術用語 】 版画技法。他の版形式(凸版、凹版、平版)が全て版材に盛ったインキを紙に転写するのに対して、孔版は版膜にあけられた孔をインキが通過することで印刷される。従って原画は左右逆にならず、またインキの盛り上げも自在である。孔版の最も原始的なものはステンシルで、型紙を切り抜き、上から刷毛やローラーで絵具を刷り込む。日本でも古くから、薄い美濃紙を渋で貼り重ねた防水性の渋紙に型を切り抜いて版をつくる合羽版(かっぱばん)が行われている。あまり細かい製版はできないので簡潔な表現に適している。同じ孔版で、ステンシルのより進化したものとしてシルクスクリーンやミメオグラフ(謄写版)がある。これらは版膜を完全に切り抜くのではなく、絹布や紙への目止めによって、インキの通過する部分としない部分をつくる。従ってステンシルのように型が地続きになっている必要はなく、より自由な、また繊細で微妙な表現が可能となる。なお「ステンシル」は広義の孔版をも指すが、普通は上述のような型紙印刷を指す語として使われる。 |
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