日本の
銅版画家が、国際舞台で活躍し評価されるようになったのは1950年代以降で、中林が
銅版画を制作し、作家としてデビューするのもこのような機運の上にあった。東京芸術大学で
駒井哲郎に師事し、
銅版画の魅力を知ることで、以後画業の中心にすえる。
銅版画とひと言で言っても様々な技法があるが、中林は、自己の内部にあるものを直接銅版に刻み込むよりも、そこに腐食させる工程を加える腐食
銅版画の方が素直な表現ができる、と言う。この作品も
エッチングや
アクアチントといった腐食
銅版画の技法で表されている。この作品のユニークさは、題名の「転位」が示すように、落葉を配した枯れ草を直接転写するところにある。自然の容貌(ぼう)をそのまま画面に移しとる手法は版画ならではのものだが、中林は腐食の技法を用いることで、現実と幻想が交差する独特な世界を描き出した。(森芳功「文化の森から・収蔵品紹介」讀賣新聞1989年10月25日掲載)