作家名:
武蔵篤彦
制作年:1992年
技 法:コラグラフ、凹版 紙
武蔵篤彦は1970年代後半のアメリカで版画を学び、コラグラフや
リトグラフの技法で制作してきました。即興的なタッチ、折り重なる色彩を活かした表現は今日まで一貫した特徴です。版画と並行して
ドローイングの発表も続けています。 40歳の時、作家は客員講師としてオーストラリアに11ヶ月間滞在しました。延々と続くユーカリ林と大地、そのグレー掛かった
グリーンが眼をとらえたと言います。この作品は、キャン
ベラの気候から抱いた心象を表したシリーズの1点です。 布かひもを貼ったような絵柄が見えるのは、コラグラフによります。板に何かを貼ったりペースト状の材料で筆跡を付けたりして、自在な凹凸を作ることができる方法です。 ここで作家は、10枚の版から3枚を組み合わせるというルールで、毎日1点ずつ異なる作品を制作しました。その日その日の気分やひらめきを元に、色彩が幾重にも浮かび上がって見えるような複雑なニュアンスが生み出されています。主な版を決めず「カオス状態のまままとめたかった」と作家は語っています。版を使ってしか作れない絵、そして漠としたヴィジョンの定着にこだわる、作家の思いを感じさせる言葉です。