リン・チャドウィックは、
ヘンリー・ムーア以後のイギリス現代彫刻を担う作家のひとりです。
ロンドンに生まれ、建築製図家として出発、彫刻の制作は戦後になってから始めています。最初は
コールダーの影響を受けてモ
ビールや構成的な作品を発表していましたが、その後、金属による巨大な動物や昆虫のかたちをした廃墟のような作品を経て、1960年頃から四角や三角など鋭角的に面取りをした人体像を中心とした制作を行っています。この角張った特異なフォルムの人体は、実際にはありえない非現実的なかたちにもかかわらず、そこからやはり人間の身体が感じられるという矛盾を観るひとに与えます。この矛盾こそ、現代における人間の存在を問うもので、
チャドウィックの主観的な
リアリズムともいえる、彼の人間に対する感情のメタファーとして変形・歪曲された人間の姿が、ここでは示されています。(安達一樹「文化の森から・収蔵品紹介」讀賣新聞1990年07月04日掲載)