「そして奇跡が始まる。彼はまったく迷うことなくキャンヴァスに立ち向かう。モチーフは頭の中にあり、それをいささかも躊躇することなく画面に描き出す。彼が自分の作品を見直さなければならなかったり、加筆しなければならないような失敗をしたりするのは、まったくみたことがないいっていい。絵はがきはちょっとした“気休め”にすぎず、ただの目安でしかない。描き上げられたものはすべて、彼が夢見たものである。その夢に焼き付けられているのはパリ、それも
ユトリロのパリであり、ゆったりとした広場のあるモンマルトルである」 「……
ユトリロは病院に入院するようになってから、
グワッシュで描き始めた。命に危険を及ぼすような彫刻用のこてやパレットナイフといった物はみな、そこでは手にすることはできなかったのだ。こてで磨りつぶして画面に塗り込めた漆喰にも、チョークにも、苔やセメントにももうおさらばだ。
ユトリロの大いなる時代、白の時代は息絶えた……」
ユトリロは
グワッシュを使うことに心を決めた。彼が彩色した
グワッシュ画を初めて発表したのは1916年から18年ごろである(K.S.)