この油彩画は、
ユトリロの都会的な光景への嗜好を反映している。それは工場の煙突、労働者街という
ユトリロの世界である。ここではすべてが完全に幾何学的に構築されており、窓や屋根、塀や壁がバランスよく調和している。 赤いストッキングをはいた赤毛かブ
ロンドの女性が一人、車道の左側をこちらに向かって歩んでくる。これは
ユトリロが何度か描いた幻である。木々はある意味で、
ユトリロの内包する命を示している。それらは色の面の上に描かれ、画面の単調さを破っている。オーカーや黄褐色は灰色や赤、青と対置されており、工場の煙突は男性のシンボルであるかのように屹立している。
ユトリロがこの風景によって、入院中の胸を締めつけられるような苦しい体験を思い出していたことが、画面から感じとれる。この絵には悲しい詩情が漂っている。(K.S.)