有名な作曲家の楽譜のための表紙デザインは特に19世紀末に盛んであったが、この
ドニの作品も、クロード・ドビュッシーの「祝福された娘」の楽譜の内表紙のためのデザインである。本作品のテーマになっている受胎告知は、
ラファエル前派等、19世紀末の
象徴主義芸術において頻繁に取り上げられた主題で、
ドニも油彩や版画作品でよくその主題を描いている。ただ、
ドニの場合は伝統的なキ
リスト教絵画の
モティーフ、例えば処女を意味するマリアの白ユリ等を用いず、天使もはっきりと描かないことで、主題を曖昧にしている。彼の関心はむしろ、図と地と文字のバランスにあり、人物も画面を構成する平面的な形態として捉えられている。他の
ドニの作品同様、女性の体は、鳥居清長の美人像のように、八頭身以上に長く引き延ばされている。(「世紀末から 西洋の中の日本「
ジャポニスム展」図録)