ナビ派の画家たちの中でも専ら挿絵画家として、劇のプログ
ラムや楽譜の表紙のデザインをしていた
イベルスは「ナビの
ジャーナ
リスト」と呼ばれたほどであった。歌手のジュール・メヴィストは
イベルスと親交の深かった一番の顧客であり、彼は他の歌手仲間たちにも
イベルスに絵を描かせれば、出版社も喜んで楽譜を出版するし、楽譜も売れると口添していた。この大型ポスターは
イベルスが挿絵画家としての道を踏み出した頃描かれたが、町中に張り出されることによって、ポスター・デザインの分野でも彼の評判を高めた。画面の右に大きく描かれたメヴィストが眼をやるのは、工場と労働者の姿であり、工業化社会による労働者の搾取を批判したメヴィストの歌の内容を表現している。画面に沿って迫り上がる地面や、デフォルメされた遠近感、緑と赤の補色の使用等に、
イベルスが
ロートレックや
ナビ派の画家たちと同じように浮世絵の様式的要素を取り入れていたことが窺える。(「世紀末から 西洋の中の日本「
ジャポニスム展」図録)