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絵のない鑑賞タイム コーナー紹介 実車ギャラリー

new! 展示作品‘Pickup’解説  絵のない鑑賞タイム

数ある展示作品の中から、選りすぐりの2作品をピックアップ!あえて音声のみの作品解説でお楽しみください!

山下菊二

〈高松所見〉

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  • ▶ 1.作品の基本情報( ― 0:45 )
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ジャン・メッツァンジェ

〈自転車乗り〉

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コーナー紹介

本展では、自転車の登場する絵画やポスターなどの美術作品や、古今東西の様々な自転車を、4つのコーナーにわけ展示します。

1章 自転車誕生!

 車輪を人力で動かして進む乗り物「自転車」の始まりは諸説あるが、一般的には1817年のドイツで生まれた「ドライジーネ」がその元祖と言われている。これは足で地面を蹴って進む方式だったが、その後、19世紀後半には前輪にペダルが付いたミショー型、スピードが出せるように前輪が大きくなったオーディナリ型、そしてチェーンによって後輪を駆動させて進む、現代の自転車の基となったセーフティ・バイシクル(安全型自転車)へと発達していった。また、自力で走行するものは、二輪に限らず自転車と呼ばれるが、この自転車の発達段階では、一輪、三輪、四輪などの様々な実験や試みが行われ、素材も木製から金属製へと移り変わっていった。
 早く快適に走るための工夫が生み出した自転車のスタイルは、オーディナリ型をはじめとしてデザイン性も豊かで、格好良さや優雅さ、美しさを感じさせてくれる。

  • ミショー型自転車

    ミショー型自転車
    自転車博物館サイクルセンター蔵

  • トライシクル

    トライシクル
    自転車博物館サイクルセンター蔵

  • オーディナリー型自転車

    オーディナリ型自転車
    自転車博物館サイクルセンター蔵

  • セーフティー・バイシクル

    セーフティー・バイシクル
    自転車博物館サイクルセンター蔵

2章 自転車とオリンピック・パラリンピック

 オリンピック・パラリンピックにおいて自転車競技は1896年の第1回アテネ大会より正式種目として採用されている。1992年のバルセロナ大会からプロの参加も認められ、注目度もアップした。1996年アトランタ大会からはマウンテンバイクが、2000年シドニー大会からはトラック種目に日本発祥の競輪がKEIRINとして、2008年北京大会からBMXレースがそれぞれ加わり、そして2021年東京大会からはBMX種目でのフリースタイルが競技に加わることになっている。
 オリンピック大会のために製作された片倉シルク、エバレスト チャンプそしてケルビム ピスト。これらのピストバイクからは、当時の製作所やフレームビルダーの誇りと熱気、そして沿道で競技を見守った人々の感動が蘇る。また、1964年東京大会に日本代表として出場した大宮政志選手のゼッケンや大会競技資料などを展示する。

  • 土屋製作所 エバレスト チャンピオン

    エバレスト チャンピオン(土屋製作所)
    自転車文化センター蔵

  • 今野仁 ケルビム ピスト

    ケルビム ピスト(今野製作所 今野仁)
    今野製作所蔵

  • 1964オリンピック東京大会 自転車競技個人ロードレース 記録写真

    〈1964オリンピック東京プレ大会
    自転車競技個人ロードレース 記録写真〉大宮政志蔵

  • 1964オリンピック東京大会 公式ポスター

    亀倉雄策〈1964オリンピック東京大会 公式ポスター〉
    八王子市郷土資料館蔵

3章 自転車と美術

 自転車がモチーフとなった美術作品も数多く制作されており、それらを「3−1 自転車とポスター(19世紀末から20世紀)」、「3−2 明治・大正・昭和 自転車のある日本」、「3−3 20世紀 モダンアートと自転車」、「3−4 写真と自転車」の4コーナーに分けて紹介する。
 これらの自転車をめぐる美術作品の見どころとして、まず挙げられるのが、自転車の機械美やスピード感、その形態に着目した表現である。特に20世紀初頭のモダンアートや写真表現の展開においては、造形的な実験や、自転車の機械の美しさ、そのオブジェ性への着目など、前衛的な表現の試みを見ることができる。また、美術作品における自転車というモチーフがもつ意味合いを考えてみると、ある時は新しい近代的な生活の自由さや軽やかさへのあこがれを、またある時は、さりげない日常性を象徴的に暗示している。それは一種のアイコンのような役目を果たしているとも言えるだろう。いずれにしても、自転車は絵になるモチーフなのである。

  • フェルディナン・ミスティ=ミフリエ チボリ自転車教習所

    フェルディナン・ミスティ=ミフリエ〈チボリ自転車教習所〉
    自転車文化センター蔵

  • アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック シンプソンのチェーン

    アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック
    〈シンプソンのチェーン〉リボリアンティークス蔵

  • 豊原国周〈東京高輪風涼図〉

    豊原国周〈東京高輪風涼図〉
    自転車文化センター蔵

  • 品質優等ダンロップタイヤ

    〈品質優等ダンロップタイヤ〉
    京都工芸繊維大学美術工芸資料館蔵

  • 岡田勝弥商店引札(徳島県石井町)

    〈岡田勝弥商店引札(徳島県石井町)〉
    徳島県立文書館蔵

  • ジャコモ・バッラ 輪を持つ女の子

    ジャコモ・バッラ〈輪を持つ女の子〉
    ふくやま美術館蔵

  • 松本俊介 街(自転車)

    松本俊介〈街(自転車)〉
    岩手県立美術館蔵

4章 自転車とデザイン

 競輪競技で使用されるピストバイクは2000年代初頭にスケボーやBMXと同様の道をたどりカルチャーとして発展した。好みのフレームに好みのパーツで組み上げた一台はまさに自分だけのスタイルであり主張であった。このブームのきっかけは、日本のKERINフレームを好んで使用していたニューヨークやサンフランシスコのメッセンジャーと呼ばれる自転車バイク便であり、無駄の無いデザイン、自分だけのバイクで自由奔放に街をライドするスタイルが若者たちの熱狂的な支持を浴びこれまでに無いほどのブームが到来した。
 様々なデザインで私たちを魅了する自転車。ここでは時代を飾ったバイクとともに自転車からヒントを得てデザインされた椅子、自転車大国オランダを代表するディック・ブルーナによる平面作品、竹やマホガニーを使用した異素材のバイクらを紹介する。時代とともに駆け抜けたバイクを通じて、これからペダルがどこに漕ぎ出そうとしているのかを感じていただきだい。

  • タイタン

    タイタン
    自転車文化センター蔵

  • KUWAHARA BIKE WORKS BMX KE-01

    KUWAHARA BMX KE-01(KUWAHARA BIKE WORKS)
    KUWAHARA BIKE WORKS蔵

  • マルセル・ブロイヤー ワシリーチェアー

    ワシリーチェアー(マルセル・ブロイヤー)
    京都工芸繊維大学美術工芸資料館蔵

  • 小澤徹 レース用車椅子 GPX-SR

    レース用車椅子 GPX-SR(オーエックスエンジニアリング 小澤徹)
    オーエックスエンジニアリング蔵

  • 佐野末四郎 マホガニーバイク NoT-5

    マホガニーバイク NoT-5(SANO MAGIC 佐野末四郎)
    SANO MAGIC蔵

  • 栗田秀一 メビウス カヴァイシャスフレーム

    メビウス カヴァイシャスフレーム(メビウス 栗田秀一)
    自転車博物館サイクルセンター蔵

  • 今野真一 ケルビム ハミングバード

    ケルビム ハミングバード(今野製作所 今野真一)
    今野製作所蔵

ジャン・メッツァンジェ 〈自転車乗り〉×

この作品解説は、あえて画像を用いず言葉のみで、作品ご紹介するという試みです。

1 作品の基本情報について

この作品は油絵の具で描かれた絵です。キャンバスという布の上に描かれています。

大きさは、縦が55cm、横が46cm。縦長の画面です。木の額縁に入っていて、見た目よりも少し重さがあります。

描かれた年は1911から12年。今から100年以上前です。この絵を描いたのは、フランス人のジャン・メッツァンジェ。徳島県立近代美術館が所蔵している作品です。作品の題名は、〈自転車乗り〉です。

2 画面の全体について

画面下から三分の二は競技場でしょうか?画面上の三分の一は遠くに見える観客席と空です。

画面の真ん中に自転車をこいでいる人がいます。自転車は向かって右側から左側の方に進んでいます。自転車の全体が、画面左下、時計の7時の方向に傾いています。前輪は画面左下の角に接しています。自転車に乗っている人は両手でハンドルを持ち右足のヒザが時計の11時の方向で、胸につくところまであがっており、左足は時計の5時の方向で、地面につきそうな所までさがっています。上半身は前に傾いています。顔はほとんど無表情です。この自転車の前輪、向かって左側には、別の自転車の後輪がみえます。この自転車の後輪、向かって右側には、別の自転車の前輪がぶつかるほどに近づいています。

3 色と形について

まず、色です。自転車選手の上着は、白地に黒の縦縞です。ズボンは、腰とヒザまでがオレンジ、ヒザから下は黄色になっているようですが、色は混じっていて、はっきりしていません。そして、選手の頭や右腕の部分は半透明で、背景の観客席などが透けて見えています。自転車が走る道は青みがかった灰色に黄色とオレンジがまざっています。空は青みがかった灰色です。

次に形です。自転車選手の頭は楕円型の球のような形です。腕と足はそれぞれ筒の形をしていて、腕はヒジから先が、足はヒザから先が三角錐のような形です。ちょっとロボットのようにも見えます。そして、両ヒジを左右に張り出して、前傾姿勢で自転車に乗っている選手の姿全体が、大きな菱形のように見えます。自転車は車輪が円形、ハンドルは半円形、観客席の屋根は三角形です。

全体的に見て、描かれているモチーフは、それぞれ幾何学的な形に単純化されています。

4 画面の部分について

自転車の車輪が合計で四つ描かれています。まず、真ん中の選手の自転車前輪と後輪です。そして、画面の右側に別の自転車の前輪だけが、画面の左側にはもう一台の別の自転車の後輪だけが描かれています。自転車は合計で3台です。

自転車の走る道には、左下から上に向けて伸びるたくさんの直線と、渦や波のような曲線が描かれています。

背景の観客席と自転車の走る道をへだてている低い壁は、向かって右から三分の一がほぼ水平に、途中で時計の八時の方向に下へ折れ曲がり、続いています。

5 この作品の特徴について

自転車に注目しましょう。車輪のスポークも、車輪をつなぐチェーンも見えません。きっと、車輪もチェーンも、目にもとまらない速さで回転しているのでしょう。

そうだとすると、画面に描かれたたくさんの直線や、渦、波のような曲線は、車輪が生み出す、渦巻く風でしょうか。あるいは自転車が走ってきた道筋、軌跡をあらわしているのかもしれません。

選手の頭や右腕が半透明に見えるのも、自転車があまりにも素早く動いているからでしょう。動きやスピードが上手く表現されています。

さて、この場面は、レースのどのあたりでしょうか。

仮に、レースの終盤で、ゴール間近の場面だと、想像してみましょう。向かって右から進んできた自転車選手たちは、ここで左にカーブし、先を争って、さらに加速します。

遠くには大歓声が響いています。でも、聞こえるのは、風を切る音、そして車輪のきしむ音。あるいは、選手にとっては、無音の静けさの瞬間なのかもしれません。大きな菱形のかたまりとなった自転車選手が、最後の力を振り絞って、猛スピードでゴールに向かって疾走します。

この作品は、その決定的な一瞬をとらえています。100年ほど前の自転車競技の様子ですが、みずみずしい新鮮さを感じます。

6 作家について

作家のジャン・メッツァンジェは、1883年にフランスに生まれ、1956年に亡くなりました。この絵を描いた1911年、メッツァンジェは、当時の新しい芸術運動であるキュビスム運動に参加します。ルネサンス以来、絵描きたちは、立体感や空間をあらわすために、モノの姿に影を付けたり、奥行きがあると見えるように遠近法を使って描いてきました。

しかし、キュビスムを始めた人たちは、こう考えます。それは、平面の上に見せかけるように描いているだけではないか、と。そして、絵画は平面なのであるから、その平面でなければ表現できないものは何か、ということを根本的に探求したのです。

メッツァンジェは、1912年にフェルナン・レジェ、ジャック・ヴィヨンらと共に、キュビスムのグループ、「セクシオン・ドール」、日本語では「黄金分割」を結成しました。また、アルベール・グレーズとともに、著作『キュビスムについて』を執筆します。

20世紀の新しい美術をリードした重要な作家といえるでしょう。

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山下菊二 〈高松所見〉×

この作品解説は、あえて画像を用いず言葉のみで、作品ご紹介するという試みです。

1 作品の基本情報について

この作品は絵です。作品の題名は、《高松所見》。大きさは縦が65cm、横が80.5cm。キャンバスに、油絵具で描かれています。昭和11年、1936年に描かれました。 この絵を描いた人は、山下菊二です。徳島県立近代美術館が所蔵している作品です。

2 画面の説明

横長の画面です。9人の男女が描かれています。

大きく分けて、画面下半分には街を行き交う人々の姿、上半分には、写真をバラバラに貼り付けたような具合に、電車に乗る人、入浴する人、カフェで働く人、受話器を取って電話する人などが描かれています。画面右上から時計回りに見ていきましょう。

まず1人目。1時の方向に、西洋風のモダンなカフェで接客する女性がいます。彼女の手前には、西洋風のテーブルや食器、唐草文様のほどこされた手すりなどが大きく描かれています。次に、2人目。3時の方向に、室内で電話をかける事務員の女性がいます。続けて、3人目。5時の方向に、チェック模様の洋服姿で、しゃがんで足許を直している女性です。

そのすぐ左側に、4人目。襟付きのコートにロングスカートを身に着け、ブーツを履き、左から右へと颯爽と街を行く女性がいます。一際目を引く存在です。そして、6時の方向を見ると、今度は人ではなく自転車が描かれています。籠のついていないシンプルな形の黒い自転車です。そのすぐ後ろの空間には、古道具屋でしょうか。柱時計と洋風の椅子が二脚見えます。それらの左側、7時から8時の方向へ目を移しましょう。5人目に赤い着物を着た女性、6人目に帽子を被ったコートの男性がいます。男性は、身体の右半分が黒色、左半分が白色に塗り分けられていて、何だか異様な雰囲気です。

そして7人目に、黒い着物を着た女性が描かれます。続けて、10時の方向へ目を向けると、青い洋服姿の女学生が電車の座席に腰かけています。これで8人目です。そして、12時の方向に入浴中の女性がいます。これが最後の9人目です。煉瓦のような石造りの浴槽に、顔を右後方に背ける形で両胸と太ももをあらわにしています。そんな彼女の頭上には、トンネルの入口に差しかかった列車が描かれています。

3 作品の特徴について

この絵には9人の男女が登場しますが、男性は1人のみ。とりわけ目を引くのが、5時の方向に描かれた、ブーツを履き、襟付きコートにロングスカートを着こなした女性です。右手をスカートのポケットに突っ込み、左手には何か白い紙のようなものを抱えています。今の私たちから見ても十分に通用しそうなファッションです。しっかりと前を見据えて歩く彼女の姿からは、自立した職業婦人の花形ともいうべき凛とした雰囲気が伝わってきます。そんな彼女のすぐ左脇の6時の方向に描かれた自転車は、都会を象徴するモチーフとして描かれたのでしょう。

その他にもカフェの店員、事務職の職員など社会で働く女性たちが描かれているのは、都会の真新しい風俗の描写そのものと言えそうです。それらの人の姿を通じて、香川県の大都市である高松の、昭和初期の街の様子が分かるような画面となっています。

色に着目しますと、全体的に暗く沈んだ色調、黒や褐色を基調とした色で描かれており、画面全体から暗い印象を受けます。9人の人物は皆一様に無表情で、それぞれ違う方向を向いており、視線が交わりません。疎外感が強められているようですが、それによって空間に奥行きと広がりがもたらされているとも言えます。

4 作家について

作者の山下菊二は1919年、徳島県井川町に生まれ、1986年に亡くなりました。戦争と差別に抗議する作品を数多く描いた、戦後の日本美術を代表する画家として知られています。三番目の兄に当たる谷口董美の影響で美術を志し、香川県立工芸学校へ進学。《高松所見》は、まだ17、18歳の若き山下が新しい表現に意欲的に取り組んだ貴重な作品であると言えるでしょう。

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