特別展 それぞれのながめ 特別展 それぞれのながめ 特別展 それぞれのながめ

【お知らせ】
開催会期が2020年5月9日(土)~6月28日(日)に変更となりました。

近年、それぞれの表現に深まりを見せる作家たちの絵画作品を展覧し、「絵画表現とは何か」ということをじっくりと考える機会を持ちたいと思います。
河合美和、児玉靖枝、増田妃早子、渡辺智子の4人の画家は、40年近い制作の日々を互いに認め合いながら、各々が力を養ってきました。ここでは、それぞれの画家たちが目指してきたことを踏まえ、その豊穣な絵画の世界に浸り、絵画表現を味わうという至福に気持ちを傾けたいと思います。

出展作家

その先にある輝かしい場へ

河合美和Miwa Kawai

 河合美和は、1960年に兵庫県に生まれ、84年に京都市立芸術大学美術学部美術科油画専攻を卒業しました。河合が育ったのは神戸の街で、六甲の山の美しい稜線は幼い頃から暮らしのすぐ傍にありました。とりわけ、家族と共に山を歩くのが好きだった河合は、山に分け入ったときに次々と目の前に開けてゆく光景を幾度も心に焼き付けてきたことでしょう。そして、いつからか、木々の間を抜けて開けた先にある光溢れる場所へ、絵画表現を通じて辿り着こうと試みてきたように思われます。描かれているのは樹木の幹や枝のようですが、河合が描き出そうとするのは樹木そのものではありません。昔話では、木の股から不思議な力を持つ存在が生まれてきましたが、河合の描く木々からは「絵画空間」が生みだされました。さらなる奥行きを目指すという試みは、ときに深い森を彷徨うときにに感じるような畏れや愉悦をも観る者に与えながら、重厚で華麗な画面を出現させたのです。

とりわけ、伸びやかな筆から生まれる近年の作品は、その前に立つ者に希望を与えるように感じます。画面の奥へと迷いなく視線を誘い、私たちをその光溢れる場所に誘ってくれるからです。その絵画は、同時代の表現の役割を確かに踏まえ、光満つ、その輝かしい場所は私たち自身の内に存在するのではないかということをも示唆し、導いてくれてもいるようです。

冷静な目、明晰な思考、誠実な手

児玉靖枝Yasue Kodama

 児玉靖枝は、1961年に兵庫県に生まれました。1984年京都市立芸術大学美術学部美術科油画専攻を卒業し、86年京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻を修了しました。自然に取材した主題をじっくりと展開させ、冴えわたる理念を数多くのシリーズとして作品を通じて示し、私たちの時代の絵画表現を導く美術家の一人と目されてきました。通勤路や近隣の雑木林や水辺の光景を目にしたときに、彼女は見ているものや自然の現象について、佇みながら深く観察します。そして、ふと目の前に出現した「不可知」な存在によって露わにされた情景を絵画表現として画面に留めようと考えました。知り得ぬことを追い求め、知らずともよしとも解釈ができることを解明しようとする姿勢は、この明晰な作家の真摯な挑戦のようでした。目を懲らし心を向けなければ感知し得ない微かな動きや揺らぎ、光や湿り気、温度などが保たれた、その端正な画面は、本質的な奥行きに支えられています。

その後、<Asyl>というタイトルの下に描かれた作品群は自信に満ち、神聖で寛容な表現でした。Asylとは「何者にも侵されない自由領域」とする児玉は、人のいのちや精神の安寧に繋がる場を絵画によって守り抜くことを高らかに謳い上げたのです。どんな人も、どんな思想も、どんな感情も平等に受け容れ、護り、尊ぶという意思の表れは清しく、崇高なものに思われました。誠実に絵画表現と向き合いながら、その画業の到達点をどんどん高めてきた、同時代の誇らしい絵描きであると言えるでしょう。

貫かれる知性と才気

増田妃早子Hisako Masuda

 増田妃早子は、1962年に大阪府に生まれました。1985年京都市立芸術大学美術学部美術科油画専攻を卒業した後、今日までたゆまぬ制作を続けてきました。増田の作品は、現前するものを画面に蘇らせるために、その意味を探り、とらえきれないリアリティについて問いかけます。そして、ときに機知に富み、ときに内省的で思慮深い表現で応じ、静かな余韻を与えてきました。〈偶然の一致〉という作品群には、画面の中央に楕円が認められます。そして、それが窓や鏡のような役割を果たし、水鏡のように、花や月の姿が映り込んでいます。

その面は、凍てついるようにも、さざ波が立っているようにも、鎮まって平らかであるようにも描かれ、異なる6つの画面に展開しています。 それは、私たちが何かを見ること、ひいては考えることの数多の様相を描き出しているように見えますし、「鏡物」と呼ばれる日本の古典文学における壮大な歴史物語を想起させもします。鏡文学における昔語りの内容は問答や座談によって私たちに知らされますが、描かれた6面の明鏡は、独白や対話、止揚などの語りの進展を見ているようにも、物を見たり考えたりする際の多様性を表しているようにも、一つの真実のさまざまな現れを具現しているようにも見えて、じつに巧みです。

暮らしに満ちる慈愛と哲学

渡辺智子Satoko Watanabe

 渡辺智子は、1963年に奈良県に生まれました。1986年京都市立芸術大学美術学部美術科油画専攻を卒業しています。渡辺は、私たちが看過しがちな自然の細やかな移ろい、そのしたたかな力や勢いに、すべての感覚器官を研ぎ澄ませて向き合い、幾重にも重なりながら透明な輝きを放つ、濃密な被膜によって身辺から掬い取ったようなモチーフを画面に息づかせ、調えます。渡辺の画面に頻繁に現れるモチーフは、身辺から採取され、見る者の感情を大らかに受け止めて温め、養ってくれるような慈愛をにじませています。広口の鉢は、観る者の思いの全てを受け容れてくれるものであり、描かれた小舟は、悠久の時の流れに逆らうことなく、安らかに私たちのいのちを運んでくれるものです。

そして、その作品を貫いているのは、渡辺が日々の生活の中から見出した深い哲学です。それは、同じ時間を生きながら、日々違った様相を見せる動植物など、暮らしを彩る豊かな自然との語らいを通じて得られたものであり、多くを識り、目と手と心を用いてそれらを深く考えることから導き出されたものです。渡辺が描く画面には、どんな小さなものにも魂と、生きている時間の刹那に垣間見ることのできる真実が宿っています。この惑星上の全ての存在に普く行き渡る深い愛情と賢明な哲学が、紛れもなく私たちの現実の日々に在ることを、夢のように淡く、美しく、そして力強い作品を通して示してくれます。

描き続けること

 作品を創り続けること、表現を生み出し続けることの大変さは、言葉には尽くせません。ましてそれが、時代や社会、私たちの人生を全て取り囲んでいるものへの意識の高いまなざしに始まるものであるならば、生み出す人たちの知性や感性、洞察力はいかばかりのものでしょうか。
 本展に出品する4人の画家たちは、いずれも平面表現の可能性を探りながら、移ろう「いま」を見つめ、揺るぎなく歩み続けて来ました。作品の前での経験が、私たちの人生をこれまでより美しく、輝かしいものにしてくれること、私たちの日常に多様な視点を示唆し、探究心をかき立ててくれること、私たちの生きる時間に希望や勇気を与えてくれること、そして芸術の存在がじつに身近であることに気づいていただければ幸いです。
(徳島県立近代美術館 上席学芸員 吉原美惠子)

開催概要

  • 展覧会名 それぞれのながめ ―河合美和、児玉靖枝、増田妃早子、渡辺智子
  • 会期 2020年4月25日[土]ー6月14日[日]
    2020年5月9日[土]ー6月28日[日]
    ※会期が変更となりました。
  • 会場 徳島県立近代美術館
  • 開館時間 9:30 ― 17:00
  • 休館日 毎週月曜日
  • 観覧料 一般 600[480]円 高・大学生 450[360]円 小・中学生 300[240]円
  • ※[  ]内は20名以上の団体料金
    ※65歳以上の方で年齢を証明できるものをご提示いただいた方は観覧料が半額になります。
    ※身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳をご提示いただいた方とその介助をされる方1名は観覧料が無料になります。
    ※小・中・高生は土・日・祝日・振替休日の観覧料が無料になります。
    ※本展の観覧料で、所蔵作品展もご覧いただけます。
  • 主催 徳島県立近代美術館

イベント

学芸員による展示解説

近年の表現に深まりを見せる世代の、四人の作家たちの作品を鑑賞します。河合美和、児玉靖枝、増田妃早子、渡辺智子は、いずれも絵画表現の可能性を探りながら、揺るぎなく歩み続けてきました。

  • 日時 2020年4月25日[土]、5月17日[日] 中止
    2020年6月14日[日]、6月20日[土]、6月28日[日]
    いずれも14:00-15:00
  • 講師 担当学芸員
  • 場所 徳島県立近代美術館 展示室3
  • 備考 要観覧券。事前の申し込みは不要です。

アクセス

徳島県立近代美術館

〒770-8070
徳島市八万町向寺山
文化の森総合公園内

☎088-668-1088

JR徳島駅からバス利用

  • ・徳島市営バス3番のりば「文化の森」行き直通バスに乗車し18分、終点「文化の森」で下車。
  • ・徳島市営バス3番のりば「市原【国道55号バイパス(ふれあい健康館・富田橋通り)経由】」行きに乗車し25分、「文化の森」で下車
  • ・徳島市営バス2番のりば「法花【文化の森経由】」行きに乗車し16分、「文化の森」で下車。
  • ・徳島市営バス3番のりば「しらさぎ台」行き、「一宮」行き、または「天の原(入田)」行きに乗車し16分、「園瀬橋」で下車。徒歩約10分
  • ・徳島バス4番のりば「仁井田西」行き、または「佐那河内線 神山高校前」行きに乗車し16分、「園瀬橋」下車。徒歩約10分

JR文化の森駅からバス利用

  • ・バス停「文化の森駅東」から「市原【国道55号バイパス(ふれあい健康館・富田橋通り)経由】」行きに乗車し7分、「文化の森」で下車。

徳島市営バス 徳島市交通局 ☎ 088-623-2154

徳島バス ☎ 088-622-1811


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