説明 |
ピカソは、画家とモデルの関係をテーマに多くの作品を残している。そこに描かれた年老いた絵描きの姿は、おそらくピカソ自身の自画像でもあり、彼の私生活と密接な関係を持っている。(1)そして、特に晩年は日付を記しながら、大量にこの「画家とモデル」のテーマによる版画を制作しているが、そこには、おそらく日記のような意味合いもあった。<流砂>は、1960年に亡くなった詩人、ピエール・ルヴェルディの最後の詩にピカソが寄せた挿絵である。それらは「画家とモデル」をテーマとする作品のうち、1964年と65年に制作された版画10点から成っている。ここには、晩年のピカソらしい自由奔放な人間表現が見られるが、晩年の「画家とモデル」の作品群の多くが、エロティックな欲望を生き生きと伝えてくるのに比べて、<流砂>の作品群は、いくぶん禁欲的な緊張感も感じさせる。ルヴェルディの詩は、一人の詩人が自らの人生を振り返り、締めくくるものである。全てのものがいつかは死に絶えるように、詩人にも必ず死は迫ってくる、こんな当たり前のことが、死に直面した詩人の胸をよぎった。さて、ここに老画家ピカソのどのような思いを見ることができるのだろうか。 |