20世紀の人間像
特集・戦争のいたみ
当館では作品収集にあたり「人間像」というテーマを選びました。一見難しく思える作品でも、鑑賞を進めるときに、人という主題が手がかりになるという考え方によるものです。今回は、「戦争のいたみ」というテーマを設けて、作品を選び出しています。
65年前に日本は、国史上の最後となるはずの戦争を終えました。しかし、現在も、地球のどこかで実際に起きている戦争の映像は、実感の伴わない現実のこととして、私たちの日常生活とは切り離されつつも目に飛び込んできます。戦争によって受けるいたみは、国や民族、時代を越えて、誰しも共感できるものだろうと思います。
伊原宇三郎は目の当たりにした従軍の日々を、中村宏は、「新しい歴史画」として実見せぬ戦争を描きました。海外に目を向けると、ケーテ・コルヴィッツは大切な家族を奪われる哀しみを刻み、アルフレッド・ジャーは悲惨な内線に翻弄される小さな命のこれからを切なく示唆しています。
いま一度、戦争によるいたみや戦いのいたみから立ち上がり、歩を進めようとした表現者たちの制作を辿っていただきたいと思います。
*作品保護のため、前期(8月29日まで)と後期(8月31日から)で一部展示替えをします。
現代版画
今期は「となりにあるユーモア」と題して、泉茂(1922-95年)、山本容子(1952年- )、クワァク・ドゥク=ジュン(郭徳俊)(1937年- )の版画作品を採り上げて、展覧いたします。
今回、紹介する3人の作家に共通するのは、日常生活のすぐ近くにある話題を見逃さずに取り上げ、独自のユーモアを交えて、表現に結びつけたというところです。
泉茂の冴えた線描により、容赦なく描き出された人間の様態は、おかしさの中に、居心地の悪さやきまりの悪さを感じることがあるかもしれません。
山本容子の作品には、モチーフが繰り返される中に生まれる明るいリズム感や、短い言葉の持つ雰囲気がうまく取り込まれ、軽やかさとからりとした空気が感じられます。
クワァク・ドゥク=ジュン(郭徳俊)は、実在する人物と作家自身の顔写真の意外な組み合わせにより、すぐにそれと解るおかしみとそこから湧いてくる深い意味を感じることでしょう。
となりにあるユーモア1 7月24日[土]-8月29日[日]
となりにあるユーモア2 8月31日[土]-9月29日[日]
徳島ゆかりの美術
今回は、県出身の伊原宇三郎(いはら・うさぶろう 1894-1976年 徳島市生まれ)、三宅克己(みやけ こっき 1874-1954年 徳島市生まれ)、森堯之(もり たかゆき 1915-44年 徳島市生まれ)、山下菊二(やました きくじ 1919-86年 三好郡生まれ)などの油彩・水彩の作品に加えて、廣島晃甫(ひろしま こうほ 1889-1951年 徳島市生まれ)、市原義之(いちはら よしゆき 1943年- 小松島市生まれ)などの季節を感じさせる日本画を、展示替えをしながら展覧します。
*作品保護のため、前期(8月29日まで)と後期(8月31日から)で一部展示替えをします。
(「広島晃甫」の人名表記を「廣島晃甫」に改めました。)
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