徳島のコレクション2010-IV 展示ストーリー

所蔵作品展「徳島のコレクション2010-IV」
会期:2010年10月2日-2011年1月23日
担当:竹内利夫(専門学芸員)

20世紀の人間像

画家たちのアプローチ
暮らしの中から
 当館では作品収集にあたり「人間像」というテーマを選びました。一見難しく思える作品でも、鑑賞を進めるときに、人という主題が手がかりになるという考え方によるものです。
 今期は、画家や彫刻家たちのまなざしを、いくつかの性格に分けて紹介します。最初のコーナーは「暮らしの中から」。子どもや家族のなにげない姿を宝物のように描いた大沢昌助、中本達也。日本画の現代的な人間表現を求めた、秦テルヲ(11月28日まで)、谷角日沙春(11月30日から)。また、日常の中に愛着とサスペンスを見いだしたポップ・アート世代のトム・ウェッセルマン、吉原英雄などを紹介します。
 私たちのごく身近なところに、発想や表現のヒントがかくれていることにあらためて気づかされます。
精神のありか
 「20世紀の人間像」後半のコーナーは「精神のありか」。モデルの内面を鋭く描き出したり、心理の不思議さを深く問うてみたり、私たち人間の存在にせまるアーティストたちのアプローチは様々です。答えが一つであるはずもありません。その長い道のりを、私たちも共有していきたいと思います。

モデルの内面
 レームブルックの頭像から伝わってくるモデルの穏やかな人柄。ガルガーリョが人気モデルのキキを、トレードマークのショート・ボブと特徴的な面立ちで描きながら、大きな空洞に悲しさをにじませた表現。アーティストたちは省略やデフォルメ(変形)の手腕を巧みにおりまぜ、ひとの内面をすくい出しています。

人体の抽象化
 人のかたちは身近で興味の尽きぬ「造形物」であり、創意の源であり続けてきました。アーキペンコやグレーズ、瑛九らの作品には、キュビスムが開拓した立体感や奥行きの新しい見え方や、抽象的な造形を探りながらもなお、生命感や気品のようなものがにじみ出してくるようです。

日常と夢想
 デ・キリコや吉原治良、ダリらの作品は、確かに人や彫像などを描いているのに、題材の取り合わせが奇妙だったり、人の様子が現実離れしていたりします。ふだんの暮らしの中では思い浮かばないような、日常から解放された心の世界を、作家たちは表現しようとしました。

人間性をみつめて
 柳原義達、フォートリエらが凝視した、人間性の奥底をまさぐるかのような像。そのイメージは決してこぎれいなものではありません。戦争をはじめ私たちの生をおびやかすものに、屈してはならない精神への敬いが、この造形に命を宿らせています。
 *作品保護のため、会期中に一部作品の展示替えがあります。

現代版画

 人間像と並ぶ、もう一つの具体的な収集テーマが「現代版画」です。写真や印刷などのテクノロジーの発達は、私たちの暮らしはもちろんのこと、20世紀美術をとりまくビジュアル文化を大きく変えてきました。そのような時代の美術をとらえるとき、「現代版画」はすぐれた切り口になると思われます。
 今期のこのコーナーでは、「版画概念の拡大」が話題となった1970年代に着目し、現代版画の特性をシリーズで探っていきます。第4回から第6回では異なる作風の二人展を通して、時代に共通するテーマに目を向けます。 グラフィック・アートへの関心の高まりの中でユニークな存在感を放った、横尾忠則と一原有徳。現代的なエロスを探求した池田満寿夫とパウル・ブンダーリッヒ。映像時代の版表現の意味を問いつめた木村光佑と木村秀樹。以上のラインナップです。
70年代のグラフィック4  10月2日[土]-11月7日[日]
 グラフィック・アートへの関心の高まりの中でユニークな存在感を放った二人の作品をご紹介します。横尾忠則は1960年代、日本の前近代的なイメージを原色で強烈に表現し、ポップ・アートの風潮にも呼応して時代の寵児となります。その活動はグラフィック・デザインの枠を越えて広がっていきました。そして1970年代、彼は精神世界に傾倒していきます。それは時代の空気を先読みし、パワフルに視覚化するものだったと言えるでしょう。
 一原有徳は1960年代に、転写によるモノタイプ版画で彗星のようにデビューします。偶発的なイメージは、抽象的ながら荒涼とした無機的世界などを連想させ、注目を集めました。人為を越えたかのようなその造形は、例えば核戦争の脅威や文明批判といった時代の目線にも答えてくれる、ふところ深さを備えていました。1970年代、彼は勢力的に表現の質を深め評価を高めていきます。
 メディア論や版表現が注目されていく60年代から70年代にかけて、二人の作家はユニークでかつ時代の風に共鳴する絶妙の立ち位置でアートの領域に切り込んでいきました。
70年代のグラフィック5  11月9日[火]-12月12日[日]
 版画をベースとして多彩なグラフィックの才能で国際的な人気を得た二人の作品を紹介します。
 池田満寿夫は1960年代に落書き風の線描によって一躍人気を博し、渡米した1965年にはポップ・アートの軽妙さを吸収します。1970年代にはメゾチント技法の濃密な描写や水彩画などのグラフィック技法を駆使し、エロティックな女性像と古典主義風のムードを組み合わせる作風に向かいました。エネルギッシュで陽気な画風を貫いた池田が、古典に心酔した時期でした。
 パウル・ヴンダーリッヒもまた最初は抽象表現主義の影響下から出発しますが、1960年代中ばから70年代にかけて、裸体写真を題材としながら、エアブラシで精妙に描く幻想的作風を確立します。リトグラフ版画やグアッシュ(不透明水彩)の名手として、現代の人間像をメタモルフォーズ(変容)の中に追求しています。
 写真技法の活用が流行した70年代、二人はともに繊細なグラフィックの才能に古典技法を織りまぜ、現代的なエロスを醸成し時代をリードしました。
70年代のグラフィック6  12月14日[火]-1月23日[日]
 写真を駆使した版画、浮遊するイメージ、断片的な映像、などことばにすると制作方法に共通点の多い二人の、つながりと違いをご覧いただけたらと思います。
 木村光佑は、画像の刷り重ねや立体的な配置によって、いわば映像的な効果を生み出します。人や道具、風景、建築など雑多なイメージは協奏し、情報化社会の混沌をスマートに見せつけます。デザインや印刷の手法がクローズアップされた1970年前後、その手際のよさで彼の制作は存在感を放ちました。
 木村秀樹は、その頃に大学時代を過ごします。コンセプチュアル・アートの流行など、美術を観念的にとらえる傾向が支配的なこの時期、〈Pencil〉シリーズのクールな表現は一躍注目を集めます。原寸大の写真のイメージを方眼紙に刷るその表現は、絵画の虚像性と物質性を問う内省的なものでした。以後も彼は、層状のイメージを駆使して版の機能にこだわった制作を一貫しています。
 両者の映像のセンスの違いは、その現実味やバイタリティなど表現の態度の違いとして際立って見えます。しかしまた、自らの問題意識を見える形にするシステムとして「版」が意識されている点において、連なる時代をリードしてきたということにも着目しておきたいと思います。

徳島ゆかりの美術

 当館は徳島県の美術館として、近代以降の徳島ゆかりの美術をたどることができるコレクションをめざし、順次紹介しています。今回は明治生まれの作家から現代の作家まで幅広く展示します。
○洋画
 清原重以知 きよはらしげいち(1888-1971年 現・阿南市生まれ)
 伊原宇三郎 いはらうさぶろう(1894-1976年 徳島市生まれ)
 板東敏雄 ばんどうとしお(1895-1973年 徳島市生まれ)
 三宅克己 みやけこっき(1874-1954年 徳島市生まれ)
○現代の日本画
 藤島博文 ふじしまひろふみ(1941年- 現・美馬市生まれ)
 市原義之 いちはらよしゆき(1943年- 小松島市生まれ)
○版画・現代美術
 吹田文明 ふきたふみあき(1926年- 現・阿南市生まれ)
 菊畑茂久馬 きくはたもくま(1935年- 現・美波町生まれ)
*作品保護のため、会期中に一部作品の展示替えがあります。

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