徳島のコレクション2011-I 展示ストーリー

所蔵作品展「徳島のコレクション2011-I」
会期:2011年1月29日-2011年4月10日
担当:吉原美惠子(専門学芸員)

20世紀の人間像

 20世紀、美術の世界では、さまざまな表現が生まれました。それは、作家たちが「何を表現するか」ということよりも、「どのように表現するか」ということを重要視するようになったからかもしれません。その結果、一見したところ、難解な作品が多くなったようにも思われました。
 そこで、当館では作品収集に際して「人間像」というテーマを選びました。それは、どのように表現されていようとも、そこには人間の姿というよりどころがあるため、鑑賞の手がかりがつかめるだろうという考えからでした。作品の中に表現された人間の姿を探りながら、なぜこのような姿に創られたのか、思いを巡らせてみてください。
 最初のブロックでは、ピカソの油彩画をはじめとする、コレクションの華ともいえる作品の数々をご覧いただきます。
  続くブロックでは、動きやうねりの中にある人間像と思考や感覚が収斂してゆく世界へと誘う人間像を対比して展覧します。スピードや勢いのある作品からは、生き生きと躍動する生命を感じ取り、時が止まったり、封じ込められたりしたような作品からは、静かに流れる私たちの時間を意識していただけるでしょうか。
躍動する表現
  ジャン・デュビュッフェは、既成の形式にとらわれぬ、生き生きした創作活動を目の当たりにしているような伸びやかさと大胆さにより、新鮮な画面を創り出していますし、カレル・アペルは、目に鮮やかな色彩と激しい筆遣いによって、原始的な生命観を、言葉を介さずに表していると言えるでしょう。
 設楽知昭は、自らの身体との直接的な対話を通して、見ることと描くことを意識した制作を行っています。鑑賞していると、自分の手指が思わず動き出しそうな気分を味わうかもしれません。
 トニー・クラッグは、その形態によって、作品にスピード感のある動きを与えているだけでなく、鑑賞する者の動きをも取り込むことで、作品にささやかなユーモアと軽快感を付け加えています。
静かにもの想うとき
  ジョージ・シーガルの作品には、時間が封じ込められたような静かな味わいがありますし、アントニー・ゴームリーの彫刻作品は、感覚をしのび込ませる器とも考えられています。
 津田亜紀子の作品からは、かたちに充満する目に見えないエネルギーのようなものを、石内都の写真からは、静かに堆積する時間が身体の表面に刻まれて、顕在化しています。ここでは、作品と対峙して、静かに内なる感覚を研ぎ澄ましていただきたいと思います。
*作品保護のため、3月7日をはさんで、一部展示替えを行います。

20世紀の人間像 特集 彫刻の魅力

 今回は、通常は特別展のために使う展示スペースを用いて、所蔵の彫刻作品をゆったりとご覧いただこうと思います。 彫刻には素材そのものの魅力やその素材の扱い、あしらいを想像する楽しさ、空間にしめるヴォリュームを味わう見方もあれば、まるで舞台で演じられている物語の一場面を見るような自由な想像力の働きを促されることもあり、その鑑賞には、さまざまなアプローチがあります。 展覧会場をそぞろ歩きながら、自分なりに楽しめるポイントを見出していただきたいと思います。
素材への親しみ
  金属板を切って、成形したコールダーの自立するかたちには、厚紙を使って立体物を作るような気軽さと親しみやすさを感じますし、同じく、ブリキ板を曲げたり、くっつけたりして組み立てた秋山祐徳太子の作品もまた、素材への親しみと溶接という制作過程への馴染みから、まずは、作品を身近なものとして感じられるのではないでしょうか。
作品世界に踏み込む
  ジョン・デイヴィーズの作品世界には、その前に立ち、これから起きようとする出来事に立ち会わされるような気持ちにさせられますし、藪内佐斗司の作品には、一人語りをする役者の口上を聞かされているような気配を味わうのではないでしょうか。
 段ボールという素材そのものの持つ、独特な表情をうまく捉えたのは、篠原有司男や、片瀬和夫の作品でしょう。かつて考えられなかったほど日常的でチープな素材を、彫刻作品として成立させてしまいました。そして、その中に現代社会の問題をもはらんで、観る者に突きつけているようでもあります。
*作品保護のため、3月7日をはさんで、一部展示替えを行います。  

現代版画

 このコーナーでは、様々なテーマを設けて、年間10回の展示替えを行っています。本展では、同じ主題によって、2期に分けて展示します。
  問いかけよ 1    1月29日(土)ー3月6日(日)
  問いかけよ 2    3月8日(火)-4月10日(日)
問いかけよ1・問いかけよ2
 今期は、荒川修作(1936-2010年)、オノサトトシノブ(1912-86年)の作品を展覧します。
 荒川修作は、1963年頃から乳白色の地に図形や記号、言葉を描く〈ダイヤグラム〉のシリーズを、69年頃からは〈意味のメカニズム〉のシリーズを制作し、言葉をイメージや物のシンボルとしてだけでなく、自立した、描かれる対象としてとらえることで、意味が私たちに及ぼす影響は何かを問い直しました。
 オノサトトシノブは、戦前からキュビスムや構成主義の影響を受けた抽象作品を発表していましたが、1954年頃から円形を主題とするようになりました。やがて朱、黄、緑、紺の4色を基調として、画面全体を覆うモザイク風の方形群から円形が浮かびあがる幾何学的抽象様式を確立し、その後も、一貫して円と格子を用いた表現を追い求めました。
 この二人の作品はいずれも、画中の図や言葉が有する力や純粋な幾何形態の持つ清明な雰囲気、秩序などを通して、観る者に働きかけています。静かに対面し、心を向け、自らに問いかけていただきたいと思います 。
*作品保護のため、3月7日をはさんで、一部展示替えを行います。

徳島ゆかりの美術

 このコーナーでは、県出身や徳島ゆかりの作家の作品のほか、徳島の風景や風物に題材をとった作品などを展示します。
 今期は、県出身の伊原宇三郎(いはら・うさぶろう 1894-1976年 徳島市生まれ)、三宅克己(みやけ こっき 1874-1954年 徳島市生まれ)、山下菊二(やました きくじ 1919-86年 三好郡生まれ)などの油彩・水彩の作品に加えて、先頃惜しくも逝去した一原有徳(1910-2010年 那賀川町生まれ)の版画作品、廣島晃甫(1889-1951年 徳島市生まれ)の日本画作品を展覧します。
*作品保護のため、3月7日をはさんで、一部展示替えを行います。

(「広島晃甫」の人名表記を「廣島晃甫」に改めました。)

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