徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
SOUL
1987年
油彩 キャンバス
220.4×123.3
福嶋敬恭 (1940-)
生地:鳥取県
データベースから
福嶋敬恭SOUL
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所蔵作品選1995

福嶋敬恭 「SOUL」

吉川神津夫

 水色の背景に黒い人型らしき形態が描かれています。タイトルは<SOUL>。日本語に訳すと魂や精神、感情という言葉になります。人の内面にかかわるタイトルを持った作品にもかかわらず、見るものにとっては、作品自体が人型であること以外、作品に近づく手がかりはありません。作者の福嶋敬恭は、どうしてこのような絵画を描いたのでしょうか。
 まず、簡単に福嶋の経歴を紹介しておきましょう。彼は京都市立芸術大学で彫刻を学び、1960年代後半から70年代にかけてはプライマリー・ストラクチャーやミニマルアートと呼ばれる抽象的な作品を制作していました。ところが、80年代に入ると本格的に絵画を描き始め、併せて具象的なイメージが見られるようになります。おりから、80年代初めには国内外でも具象的なイメージを描く絵画が流行し始めた時代でした。そうした時代の流れと、それまでの福嶋の作品との間のギャップから、福嶋の変化も時代の象徴的なものとして捉えられたのです。そして、80年代の半ばからは人型を思わせる絵画や立体作品が制作されるようになりました。<SOUL>もこの時期の作品です。ちなみに、この冬当館で開催した「IWANO MASAHITO 現代アートによる徳島再見」を企画した岩野勝人は、この時期に京都市立芸術大学で福嶋の下で学んでいたのです。
 しかし、90年代に入ると、福嶋は再び抽象的な立体作品へと移っていきました。
福嶋の作品の流れを一見しただけなら、80年代の時代の流れに同調して作品が変化し、その流れから<SOUL>も生まれた、というように見えます。しかし、冒頭でも述べたように、この作品から見えるのは人型らしき形態だけです。時代の影響が全くないとは言えないにしても、具象的なイメージの流行に同調したという言葉ではこの作品は語れないように思います。
 一方、タイトル<SOUL>に注目してみましょう。<SOUL>というタイトルの作品は今回紹介している絵画とブロンズによる立体の2点だけですが、福嶋はこの前後にもこうした精神的な要素を感じさせるタイトルの作品を制作しています。古くは1969年の<顔・メンタルフェイス>という映像作品。<SOUL>と同年に制作された3点の<POSE(MENTAL)>。その後も90年代に入って<MIND GARDEN>や<MIND PASS>と精神的な要素を感じさせるタイトルの作品を複数、場合によっては異なる形態で制作しているのです。すなわち、福嶋にとっては表現手段の違いはあれども、観る者の内面に何かを喚起させることが、一貫したテーマとして存在するのだと考えられるのです。
 <SOUL>もまた、情緒的な要素を一切排除することによって、その形と人の「SOUL」とのつながりを考えさせようとしている作品なのです。
徳島県立近代美術館ニュース No.66 July.2008 所蔵作品紹介
2008年7月1日
徳島県立近代美術館 吉川神津夫