徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説
絵画弾10
1977年
油彩 キャンバス
116.8×80.3
1977年
油彩 キャンバス
116.8×80.3
松井憲作 (1947-)
生地:兵庫県
生地:兵庫県
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松井憲作絵画弾10
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この執筆者の文章
松井憲作 「絵画弾10」
吉川神津夫
「絵画弾10」という題のこの作品は、一見、ピッチングをしている男の姿に見えます。ただし、男が手にしているのはボールではなく、石のようです。この作品を含め10点あるこの連作の偶数の番号がついている作品だけを見れば、何かを投ずるイメージの描写に見えます。それに「絵画弾」という題と男が石を手にしていることを考えれば、攻撃的な印象が加わるでしょうか。しかし、奇数の番号の作品を見れば、イメージは複雑になります。こちらでは、同じ男が椅子から立ち上がり、消火器が入ったJALのバッグを運んでいく様子が描かれているのです。この連作が描かれたのは1977年です。現在ではピンとこないイメージかも知れませんが、この時期ならば、まだ投石、消火器爆弾、ハイジャック等の学生運動に関する事柄が思い浮かびます。ただし、時代の直接的な反映という訳ではありません。「絵画弾」というシリ一ズの始まりまでさかのぼっても1974年のことで、実際の運動が下火になったと同時に始まっているとさえ言えるのです。「政治等の様々な社会問題に対して、芸術家が周囲に影響されることなく、独自の解答をはっきり提示するべきだと思います」と作者も語っているように、むしろ、この時期だからこそ描かれた作品と言えます。また、作品に登場している男は作者松井の自画像です。彼が語るには、描かれた自分の中に現実の自分の生き方をダブらせたいということなのです。そして、「絵画弾」が彼にとって唯一の武器であり、「絵画弾」を撃ち続けることが、彼にとって美術であり、解答になりうると考えていたのです。
このように、「絵画弾」とはそこに描かれている攻撃的なイメージより、むしろ作者の社会に対する異議申し立ての反映と言えるものです。また、作品には現れていないその標的は、作品を前にする観客や現実の作者白身をも含んでいるのかも知れません。そして、絵画を描くことの根拠が問い直されている現在、「絵画弾」の弾道を辿り直すことは意味のあることと言えます。
徳島県立近代美術館ニュース No.8 1993.12 所蔵作品紹介3
1993年12月
徳島県立近代美術館 吉川神津夫
1993年12月
徳島県立近代美術館 吉川神津夫