徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説
逃げたスペード
1955年
油彩 キャンバス
100.1×80.4
1955年
油彩 キャンバス
100.1×80.4
泉茂 (1922-95)
生地:大阪府
生地:大阪府
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泉茂逃げたスペード
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この執筆者の文章
泉茂 「逃げたスペード」
吉川神津夫
画面の右手前、その輪郭は人間を思わせますが、人間とは全く異なる奇妙な生き物が立っています。頭がダイス、両手・両足がチェスの駒、そして胴体をトランプのカードで覆われた、ゲーム人とでも呼べるこの者、足りないのはトランプのスペードのカード。タイトルにあるように、はるか彼方に逃げたスペードの姿を探しているように見えます。スペードに逃げられたとは、どういうことでしょうか。トランプのゲームが成り立たないと言うこと。そして、この者が人間にたとえられているとすれば、何かの能力を失った人間の姿と考えられます。画面の下の方に目を移すと、ゲーム人が立っている場所には、何やら建物の図面らしきものが描かれています。よく見れば、その中にある文字にはローマ字で「PANTEON」と書かれています。パンテオンとは国家的栄誉のあった者の墓・記念碑を含んだ公共の建築物のことです。この絵の場合、パンテオンの対象となるのは、もちろんゲーム人。このことからも、この者が何か力を持っていたことがわかります。そして、その力を失って-スペードに逃げられて-はや、パンテオンに奉られようとしているのでしょうか。ところで、〈逃げたスペード〉には同じタイトルの版画があります。背景や地の描き方は油彩と異なるものの、登場するキャラクターは共通したものです。この作品のように油彩と版画の直接的な関係は珍しいものですが、この時期の泉の作品が持つシュールレアリスムの影響を感じさせる幻想的な雰囲気は、数多くの版画作品を生み出す中で練り上げられてきたものなのです。
徳島県立近代美術館ニュース No.32 Jan.2000 所蔵作品紹介
1999年12月
徳島県立近代美術館 吉川神津夫
1999年12月
徳島県立近代美術館 吉川神津夫