徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
四宮金一 自作前の自画像(6)
自作前の自画像(6)
1987年
アクリル絵具 キャンバス
202.6×148.7
四宮金一 (1938-)
生地:香川県綾歌郡国分寺町
データベースから
四宮金一自作前の自画像(6)
他の文章を読む
作家の目次 日本画など分野の目次 刊行物の目次 この執筆者の文章

四宮金一 「自作前の自画像(6)」

久米千裕

何と不思議な光景でしょう。箱を上からのぞき込むように俯瞰して見た部屋の前に、人が立っています。しかし、部屋の上下左右がどうなっているのか、人がどこに立っているのかは定かではありません。全体的に画面が同じ色調の黄色で描かれていて、陰影の部分は緑がかっています。影ができるということはどこかに光源があるはずですが、その場所も特定できません。加えて、歪曲した遠近法が使われ、絵の中に絵があるという構造になっています。もしも、この世界に入り込めたなら、方向感覚が失われ、出てこられなくなってしまうでしょう。
この作品の作者である四宮金一は1938年に生まれました。太平洋美術学校を卒業後、公募美術展で受賞を重ね、画家として頭角を現します。四宮が現在のスタイルを始めたのは、1977年に奨学金を受けてニューヨークに渡り、ブルックリン・ミュージアム・アート・スクールに学んだことがきっかけです。帰国後には、部屋の図柄の形にキャンバスを変形させた代表作「Room」シリーズで注目を集め、更なる活躍を見せました。現在は生地・香川を拠点に制作を続けています。
四宮は自身の作品について、「ある程度の実在感と非実在感を持った物、者を画面に配置設定し、変形してゆくROOMの中において、静かに私自身の不安と恐怖、又、反面燃えたぎる情熱を叫び続けたい*」と語っています。部屋の中に描かれたものと人の肩の一部が紙のようにめくれています。実際はめくれているように描かれているわけですが、やがてすべてめくれてしまうのではないか、という予感がします。そして、描かれたものだけでなく、この絵自体が展示室の壁からめくれてしまうのでは…そんな想像を誘います。
本作のタイトルに「自画像」とあることからも分かるように、描かれた人が四宮本人であることは明らかです。しかし、人を個別化する上で最も重要なはずの顔が描かれておらず、どろっとした緑色の液体が襟ぐりから出ています。また、身体のシルエットも寸胴ずんどうで不思議な形をしています。人の形をしていますが、中身を出したチューブ絵の具のようにも見えます。そもそも「絵画」というもの自体が画家によって描かれた虚構であると考えることができます。四宮の作品は実在と非実在の境界を揺さぶり、この世界の虚構性をほのめかしています。

*四宮金一「あくる日のなぐり書き」『四宮金一展図録』フジテレビギャラリー 1983年

徳島県立近代美術館ニュース No.132 December.2024 所蔵作品紹介
2024年11月30日
徳島県立近代美術館 久米千裕