徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
福田美蘭 ぶれちゃった写真
ぶれちゃった写真
2003年
アクリル パネル
162.0×130.3
福田美蘭 (1963-)
生地:東京都
データベースから
福田美蘭ぶれちゃった写真* ※作品画像あり
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福田美蘭 「ぶれちゃった写真」

宮﨑晴子

 薄暗い室内が描かれています。画面の中央にあるのは立派な額に入れられた絵画作品。それがワイヤーで吊されているので、ここは美術館の中でしょうか。かたわらには黒っぽい服を着た人物が立っています。人物に重なるように、デジタル文字で「’2 4 18」と日付のような数字が描かれています。そして人物と絵画は、「ぶれちゃっ」ているように見えます。
 実はこの作品は、作者自身がオランダに旅行した際、マウリッツハイス美術館において看板作品ともいえるレンブラントの肖像画と自身を撮影したフィルム写真がもとになっています。急いで撮ってもらった写真は、現像に出すとぶれてしまっていて、作品も福田自身の姿も不明瞭になっていました。作者は、「すごくがっかりするけれども、妙におかしくもあり、綺麗に写っている写真よりもいろいろなことを考えさせられた。デジタルカメラが普及しつつあった当時、この感覚もなくなっていくと思い作品として残した*」と語っています。
 福田はこれまで、美術史上の名画や、時事問題にまつわる画像などを引用し、それらを作家自身によってあり得ない組み合わせにしたり、改変させたりした作品を発表してきました。それによって、画像や映像があふれる現代において絵画とは、美術とは何かという問題を私たちに投げかけ続けてきたのです。
 本作においても作家の問いは一貫しています。美術館を訪れるとき、私たちは「名作」を「見る」ことを目的として作品の前に立つことがあります。そしてしばしば、個々の感受性で感じたり、作品において作家が成したことを考えたりせず、何かのメディアを通して見た記憶の中の画像と、目の前にある作品が一致したことにのみ意味を見出してしまうこともあります。このとき、画像で見た記憶の中の作品と、目の前にある作品は、見た人にとってどちらが「本物」なのでしょうか。福田は、現像した写真の「ぶれ」を、現実の「名作」と私たちの記憶の中のそれとのあいだの「ぶれ」として捉え、作品にしたのかもしれません。
 また作家は、過去のものとして見がちな「名作」が、実は革新的な仕事であったゆえに私たちの目にふれることができているということを伝えたかったとも話してくれました。過去の作品に対する凝り固まった観念に疑問を投げかけたかったのです。やはり、この作品の「ぶれ」は、私たちの頭の中に存在する様々なイメージや思い込みを揺さぶる役割を担っていると言えそうです。
(主任学芸員 宮﨑晴子)

*作家自身が執筆した作品解説による(展覧会図録『福田美蘭 美術って、なに?』名古屋市美術館、2023年、20頁)。

徳島県立近代美術館ニュース No.130 July.2024 所蔵作品紹介
2024年7月1日
徳島県立近代美術館 宮﨑晴子