徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
浮世絵師安藤広重
1981年
紙本着色
90.9×72.7
片岡球子 (1905-)
生地:北海道
データベースから
片岡球子浮世絵師安藤広重
他の文章を読む
作家の目次 日本画など分野の目次 刊行物の目次 この執筆者の文章
他のよみもの
所蔵作品選1995

片岡球子 「浮世絵師安藤広重」

森芳功

 日本画の表現と個性のかかわりについて考えてみたいと思います。ともすれば日本画は、伝統的な表現と深く結びついているため、個性を自由にはばたかせた表現は難しいのではないかと思いがちです。しかし、個性を抜きに考えることはできません。
 今回紹介する片岡球子(かたおか・たまこ)は、この問題を考えるうえでふさわしい作家だといえます。今でこそ彼女は文化勲章受章者として、また日本美術院の大御所的存在として、日本画界に欠くことのできない存在です。しかし、修業時代は「落選の神様」と呼ばれていました。あえてスマートに洗練した画面を作らず、自分の納得のいく絵作りを追求したからにほかなりません。落選の悔しさのなかで、彼女は自分の個性のありかを探り当てていたと言えるのです。
 では、彼女の個性とはどのようなものなのでしょうか。日本美術院の院友になってから、彼女の作品につけられた「ゲテモノ」というニックネームがそれをよく表しているかもしれません。「ゲテモノ」とは、ヘタで洗練されていない粗野なものという意味ですが、どこか、親しみやすさも込めて使われていました。彼女は、そこに自分の個性を自覚して制作を続けてきたのです。
 「浮世絵師安藤広重」(県立近代美術館蔵)は、その個性的表現の展開の中から生まれた秀作といえます。線描による顔の表情が強烈で印象的です。日本画の多くにみられる上品に洗練された画面でなく、それよりも、人物の個性が際だって感じられる作品です。人物の個性表現の強さは、まさに作家の個性を表しているのです。
 この作品は、彼女が61歳から取り組んでいる「面構」(つらがまえ)シリーズのうちの1点です。歴史上の人物を、現代的視点でとらえなおして表現しようとするもので、北斎や写楽など一連の浮世絵師を描いた作品に連なるものです。
 彼女は「面構」シリーズに取り組むとき、古い彫刻や絵画に取材してイメージを膨らませます。が、例えば浮世絵のように、近代の日本画が主な流れとして取り入れていない分野も含めて、どん欲に歴史のなかから学び、表現の幅を広げていったのです。
 彼女の個性的な表現は、ひとりよがりなものでなく、日本美術のさまざまな伝統を自分の想像力によって現代によみがえらせながら発揮されたものといえるのです。
徳島新聞 県立近代美術館 48
1991年9月4日
徳島県立近代美術館 森芳功