徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
トルソ
1983年

h.134.0
植木茂 (1913-84)
生地:北海道
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植木茂トルソ
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植木茂 「トルソ」

仲田耕三

 植木は、生涯において数多くの「トルソ」を制作しています。「トルソ」とは、頭や手足を欠いた胴体だけの彫刻の総称です。元来は、古代の全身像の頭や手足が破損欠落した作品や、制作途中で放棄された未完成の作品等を「トルソ」と言っていましたが、近年では人体の量感や肉付けを集中的に表現する題材として、多くの彫刻家によって制作されています。
 この作品は、七十一歳で亡くなる前年に制作され、現代彫刻センターで開催された個展に出品されたものですが、小さい作品が多い植木の作品の中では、ボリュームといい大きさといい大作の一点と言えます。この個展では、「トルソ」ばかり十五点と「自然の風物」と題されたモビール風の作品など二十五点が展示されました。
 「彫刻をはじめてから今日まで、私は一貫して人体をテーマに、ひとつの形態を発見することに専念してきました。人体を追求すればするほど、人間の孤独な魂は、苦痛、困難を通してなお夢を持ち続け、悠々たる天地を求めているように思えます」(ギャラリー・キューブ個展パンフレット)と植木が語っているように、人体は植木にとって主要なテーマとなっていましたが、中でも「トルソ」には深い思い入れがあったようです。
 人生最後の個展を、自然への回帰と思える「自然の風物」と一生の主要なテーマであった「トルソ」で構成した植木の心情が、この個展に込められていたような気がします。
 植木は、当初三岸好太郎に師事して油絵を学ぴ、独立美術協会展に入選しますが、三岸の死後急速に絵画への情熱を失います。その後、長谷川三郎と京都や奈良を旅行した時、唐招提寺の大日如来の印相の内的なエネルギーや造形に強く感動し、これを転機に独学で彫刻家への道を歩んでいます。
 主に木を素材とした抽象彫刻の開拓者の一人であった植木は、木彫の伝統を基盤として木彫の世界に新しい生命を吹き込みました。
 円空や木喰の素朴でたくましい造形に心ひかれ、師を持たず、権威にこびずに自己の道をひたすら歩いた植木の作品は、木のぬくもりをもってわれわれを迎えてくれるような気がします。
 この作品は、県立近代美術館で現在開催中の「所蔵作品展94-IV 人のかたち-日本と海外」に、四月二十三日まで展示されています。
徳島新聞 美術へのいざない 県立近代美術館所蔵作品〈58〉
1995年3月30日
徳島県立近代美術館 仲田耕三