徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説

渚
1978年
ブロンズ
164.0×50.0×120.0
1978年
ブロンズ
164.0×50.0×120.0
淀井敏夫 (1911-2005)
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淀井敏夫渚
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所蔵作品選1995
淀井敏夫 「渚」
久米千裕
美術館の屋外展示場に、腰を掛ける女性の姿があります。つばの広い帽子にミニ丈のワンピース。足を組んで遠くを見つめる彼女の姿は、とてもおしゃれで絵になります。作者の淀井敏夫(1911–2005)は兵庫県に生まれ、幼少期を過ごした後に家族で大阪へと転居しました。その後、東京美術学校(現・東京藝術大学)で彫刻を学びます。初めは木彫部に入学しますが、次第に粘土を使った塑造に惹かれるようになり、在学中に帝展に出品した塑像作品〈男立像〉が入選するなど、早くから頭角を現しました。卒業後は国画会展、二科展、文展などに出品を重ねます。戦後は二科展を中心に活躍しました。1954年からは東京藝術大学で教鞭をとり、後進の指導にも尽力しました。
淀井の作品を概観すると、元々は重量感のある彫刻を作っていましたが、1950年代中頃から次第に空中へと長く伸ばしていく痩身のフォルムへと作風が変化していきます。そして「人」「人と動物」「動物」などをモチーフとしたのびやかなシルエットは、どこか軽やかで、周囲の空間へとしなやかに溶け込んでいきます。のちの作品へと続く、麻の繊維を混ぜ込んだ石膏を心棒に直接貼り付ける「石膏直付け」の技法が始まったのもこの頃でした。これにより粗い溶岩のような表面の質感が生まれます。
淀井の彫刻は屋外の風景によく似合います。淀井は、戦後、日比谷公園で開催されていた「野外創作彫刻展」へ連続して出品するなど、野外における彫刻と人との関わりを探ろうと、早くから創作を展開していきました。後年には、公共空間への彫刻設置(パブリックアート)にも取り組み、現在も数多くの作品が屋外に展示されています。それらの作品は、私たちの日常に潤いを与え、生活と美術を結びつける大きな役割を果たしています。彼の記念館として運営されている兵庫県朝来市の「あさご芸術の森美術館」にも、広大な自然の中に多くの屋外作品が展示されています。
本作〈渚〉は、そんな淀井の造形センスが存分に発揮された作品です。足を組んだ隙間に生まれる空間や、彼女がかぶる帽子にあいた穴に目を向けてみてください。それは、通り抜ける外気を感じさせ、降り注ぐ木漏れ日を作品の中へと取り込むためのものと言えるかもしれません。常に周囲の空間との関わりを求めた淀井。屋外展示場に本物の海はありませんが、彼女の見つめる先には、きらめく波や心地よい潮風が確かに存在しているように感じられるのではないでしょうか。
徳島県立近代美術館ニュース No.139 October.2026 所蔵作品紹介
2026年9月12日
徳島県立近代美術館 主任学芸員 久米千裕
2026年9月12日
徳島県立近代美術館 主任学芸員 久米千裕