徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説
四角い形D
1989年
黒御影石、ベンガラ
45.0×115.0×70.0
1989年
黒御影石、ベンガラ
45.0×115.0×70.0
山口牧生 (1927-2001)
生地:広島県
生地:広島県
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山口牧生四角い形D
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この執筆者の文章
山口牧生 「四角い形D」
安達一樹
この作品は黒御影石で作られています。題名どおりの四角い形です。この「石」と「四角い形」について、山口牧生は「石を加工してなっとくできる形として、ぼくは四角と丸の外知らない」「石にはもともと形はない。木には全体の姿というものがあって、誰でも木の形を描くことができるが、そういう意味で石の形を描きなさいといわれても困ってしまうだろう。しかし、石のXYZ軸に展開する節理のことを考えると石はもともと四角であろうとしているような気がする」と述べています。「節理」とは、石には目と呼ばれる割れやすさの違う向きがあることをさしています。
そして「石に四角い節理のあることを思い、河原の石のまるめられる力を思えば、それも自然に内包された理知的な原理にはちがいないが、それをまさぐり実現するのは彫刻家としてのぼくの仕事である」「作者としては今度こそ堅牢でたしかで、おおぎょうにいえば全宇宙と呼応するところの丸い石、四角い石をねがうのである」といいます。
ここで、ふたたび作品を眺めてみると、全体に赤っぽい色をしています。これは、石の表面のへこんだ部分に赤いベンガラが付いているからです。石の表面は「小さな電動カッターで櫛の目状に切れ目を入れてノミではつって作る。そのときできるエグレにベンガラを入れてそのあとグラインダーや砥石で磨く」という方法で作られています。
ベンガラは、石を加工する際に印をつけたりするのに使われる赤色の顔料です。「石の切り口に入り込んで消えずに残ったベンガラが、発掘物のわずかに残った彩色のように、自然にとけ込んだ人工を感じさせた。それがベンガラを作品に使いはじめた理由」で、「うまく定着することができれば、2、3年は色が鮮明なまま残る」そうです。
黒御影石を用い、その表面にベンガラを施す方法は、山口の作品の特徴的なスタイルです。また、四角い形はこだわりのテーマといえるものです。とはいいながら、スタイルもテーマも、作家の個性を声高に主張するものではありません。石の四角さも、表面のへこんだところに残された赤いベンガラも、自然とそこにあるようになったものといえます。表面の仕上げについて「できあがった模様は無作為の結果であって、ここにもう少しベンガラが欲しいということで、あとから傷をつくってベンガラを入れると、そこだけなんだか変な意識がはいりこんでうまくいったためしはない」といっています。
しかし、できあがったかたちが石の節理(四角い形)や無作為(ベンガラの赤)によるものとはいえ、自然そのままではありません。山口に見いだされ、手を加えられたことで現れた、自然のひとつの姿なのです。
掲載の写真は設置時に撮影したものです。それから二十数年が経ち、今ではベンガラの赤色もほとんど落ちています。かつて色が落ち、石が風化することについて尋ねたところ、山口の答えは“自然のままに”でした。石との関わりについて「ぼくが石を割り、加工するわけだが、それはほんのかりそめのことであって、じぶんをここに刻印しているというような気持ちにはとてもなれないのである。ともあれぼくは日々石のまわりをうろつき、それをコンコン叩いて暮らしている。そういうふうにしてじぶんが、石のかたわらをゆるやかに通過しているのを感じている。それは無情感というよりはもっと安らかな、ある種の充足感なのかもしれない」と、山口は記しています。
この文章の執筆にあたっては、山口さとこ編『山口牧生 石の周辺 ミチ・ガーデンから』(2011年 美術出版社)を参考とし、山口牧生の文章については同書より引用しました。
また、ベンガラについての部分では前掲書に加えて枝松亜子「自然に近く-山口牧生の造形-」(「山口牧生展-自然に近く-」図録 2001年 西宮市大谷記念美術館)から一部抜粋・引用しました。
徳島県立近代美術館ニュース No.94 July.2015 所蔵作品紹介
2015年7月
徳島県立近代美術館 安達一樹
2015年7月
徳島県立近代美術館 安達一樹