徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説
わたしにキク
2009年
ステンレス(針金) ペイント セメント
492.0x120.0x70.0
2009年
ステンレス(針金) ペイント セメント
492.0x120.0x70.0
今村源 (1957-)
生地:大阪府
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今村源わたしにキク
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この執筆者の文章
今村源 「わたしにキク」
吉川神津夫
体内から血管か神経の部分を取り出したように、白い枝状のものを絡み合わせて人間の形ができあがっています。この人型は作者である今村源とほぼ等身大の像なのです。さらに、天井から枝分かれしたような状態で枝が伸びて頭部に繋がっています。この枝だけ一部オレンジ色に彩色されています。では、今村はどうしてこのような作品を制作するにいたったのでしょうか。
今村源は1957年大阪生まれ。1983年に京都市立芸術大学大学院美術研究科を修了しています。彫刻科に属していましたが、鉄や木の塊を扱うのではなく、針金や木の枝、紙粘土などの薄くて軽い素材を用いて立体を制作していました。「わたしにキク」で扱っている素材や形状も、今村の初期からの流れを汲むものと言えます。また、自分をモチーフにするようになったのは、1990年代半ばに自分の頭部像を制作したことが始まりです。これをきっかけに自分自身の中の他者性に関心を持つようになり、自刻像を制作するようになったのです。
ところで、この作品の形状は、今村のキノコへの関心に結びついているとも考えられます。作品が展示してある空間を地下と見立てて、そこに菌糸が張り巡らされて、その一部が人型を成しているように見えるのです。展示室の床の上に立っている作品が、地下にあるかのようなイメージを反転させた面白さも与えています。
今村にとって、キノコとは変化するものの象徴としてあるものなのです。そして、自分という人間に目を向けても、キノコ同様に、日々変化しているはずなのに、生まれてからずっと変わらぬ自分であることの不思議さに思いが至ったのでした。さらに時を重ねていくうちに、今村の自分自身に対する関心は膨れあがり、やがて分子生物学にたどり着きます。
分子生物学が描く身体像は、一生変わらないとされる脳の神経細胞や心臓の細胞、骨でさえも、その構成要素のアミノ酸分子はことごとく川の流れのように作られては壊れ、廃棄されて体外に排出されていく、身体とはその淀みのような物だと説くのだそうです。
分子生物学から見れば、もはや自らの身体とは不思議を通り越して、不安で儚げなものなのです。
これまで、オレンジ色の彩色について触れませんでしたが、この色は今村の作品に頻出するものです。今村にとって、オレンジ色は光の空間の象徴なのです。そして、光は実体としてつかみ取れない異界の間に揺れ動くものと捉えているのです。この作品に即して言うなら、まさにわたしという異界の入口を象徴しているものと考えられます。
この作品が出品された展覧会のリーフレットには「わたしにキク」と題で今村の文章が掲載されていますが、次のように結ばれています。
私が作品を作るということですでに立ってしまった場所について考えなければならないと思っています。この矛盾に満ちた場所に立ちながらもどれだけこの矛盾の重みに耐え続けられるのか、甚だ自信がもてません。
*以下の文献等を参考にしました。
「今村源展-わたしにキク」リーフレット 2009年 ギャラリーノマル
「今村源展・連菌術」セルフガイド 2006年 伊丹市立美術館
「三つの個展:伊藤存×今村源×須田悦弘」図録 2006年 国立国際美術館
原久子「世界の中で紡がれる世界の関係性」『美術手帖』2006年3月号
徳島県立近代美術館ニュース No.77 April.2011 所蔵作品紹介
2011年4月1日
徳島県立近代美術館 吉川神津夫
2011年4月1日
徳島県立近代美術館 吉川神津夫