徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
TAN(b)
1960-83年
ステンレス版モノタイプ 紙
45.2×32.3
一原有徳 (1910-2010)
生地:徳島県那賀郡
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一原有徳TAN(b)
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一原有徳 「TAN(b)」

竹内利夫

 徳島県に生まれ、3歳の時北海道に移住。小樽高等実修商科学校に学んだ後、小樽地方貯金局に入局し、第2次世界大戦中の応召時をはさみ、1970年まで同局に勤務しながら制作活動を続ける。1952年油彩画を小樽市展に出品し北海道新聞社賞受賞。1058年の全道展、国画会展にモノタイプ版画を出品。1960年の日本版画協会展出品作が評価され神奈川県立近代美術館などに作品が収蔵される。
 彼の版画には大きく二つの傾向がある。一つは独特の方法で金属を腐蝕させたり、ドリルやサンダーなどで傷をつけた原版を用いて、様々な材質感を持った無機的な表情を生み出す版画。
 もう一つは、石や金属板に塗ったインクをこそげる方法で色々な形の集積や重層する線の世界を生み出して転写する方法で、この作品もこれにあたる。一回しか刷れないこうした方法はモノタイプと呼ばれる。
 空間、何かの物質の組成、脳内に浮かぶ幻影、いかようにもとれるこの不思議な視覚世界は、その奇妙な奥行き感とともに一原の手の動きがいつまでも目をとらえ、めまいにも似た映像を焼き付ける。
 また興味深いことにこの作品はモノタイプにも関わらず1960年の発想を20年余りたって再び造形化したものである。それらを厳密に同一作品と呼べるかどうかは別にして、例えば金属腐蝕版にしても20年近く経って錆が進行した状態にまた興味を持って刷ってしまうという、一原独特の版とのスタンスが反映されている。
特別展「コレクションでみる 20世紀の版画」図録 第1部 戦後の展開 3. 日本の活況 (2)刷新者たち
1997年4月12日
徳島県立近代美術館 竹内利夫