徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
岩上小禽
1916年頃
木版 紙
23.0×18.0
廣島晃甫 (1889-1951)
生地:徳島県徳島市
データベースから
廣島晃甫岩上小禽
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廣島晃甫 「岩上小禽」

友井伸一

 徳島市に生まれ、1912年東京美術学校日本画家を卒業。帝展を舞台に活躍し、1919年の第一回および翌年の第二回帝展で特選を連続受賞する。昭和初期には、審査員も努めた。
 また、1915年に開催された、永瀬義郎や長谷川潔が参加していた同人誌「假面(仮面)」主催の洋画展に版画を出品。その後、永瀬、長谷川とともに1916年、日本版画倶楽部を結成し、明治末から起こり始めていた、複製ではない創造的な版画作りを目指した。1918年に結成された日本創作版画協会に参加し、自画、自刻、自刷りを標榜して木版画制作にも積極的に取り組んだ。
 〈夕暮小景〉と〈岩上小禽〉は、ともに日本版画倶楽部時代の作品である。サインもS.Hiroshimaとなっており、日本画家廣島晃甫ではなく、青年廣島新太郎時代の作品であることがわかる。〈夕暮小景〉は、夕焼けを背景に自動車が疾走する後ろを犬が追いかけている場面であり、夕日の赤のぼかしが印象的である。オープン・カーに、大正時代のモダンな空気を感じさせる〈岩上小禽〉では、切り立った岩場に一羽の小さな鳥が太陽に向かって鳴き声を発しており、創作版画という新しい試みに身震いするような、若々しい情熱を伝えてくる。
 ともに対角線の構図を用いた、画家らしい絵心を感じさせる作品である。この時代の廣島の版画は残存例も少なく、その意味でも貴重な作品といえよう。

(「広島晃甫」の人名表記を「廣島晃甫」に改めました。)
特別展「コレクションでみる 20世紀の版画」図録 第1部 20世紀初頭 2. 日本
1997年4月12日
徳島県立近代美術館 友井伸一