徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説
頭No.3
1973年
ブロンズ
h.49.0
1973年
ブロンズ
h.49.0
ウィレム・デ・クーニング (1904-97)
生地:オランダ
生地:オランダ
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クーニング頭No.3
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この執筆者の文章
ウィレム・デ・クーニング 「頭No.3」
竹内利夫
なんと奇怪な人物でしょう。目の玉はむき出し、鼻はよじれ、□はつぶれ、おでこは溶けて崩れていくようです。人間の頭像というよりも、まるで、ドロドロした溶岩のかたまりから生まれた怪物といった様子です。いったいこれは、本当に人間像なのでしょうか。
作者のデ・クーニングは、一九五〇年代のアメリカ美術を特徴づけた抽象絵画の流行に、ポロックと並んで大きな影響を与えた画家として知られています。
何が描いてあるのかわからない、激しい線が画面いっぱいにひどく入り乱れるといった、きわめて抽象的な表現を彼は行います。けれども、その一方で、人間像を描くことも繰り返し試みられました。そして、むしろその人間像への執着によって、デ・クーニングの仕事ぶりは、さらに強烈な印象を世に与えたともいえます。
たとえば、一九五〇年から五年間にわたる〈女〉の連作は、どうにか女性とわかる絵でありながらも、姿勢はくだけ、肉は飛び散り、あられもない色彩と筆づかいに支配されています。絵の具のうねり狂うその画面は、荒々しい情動を感じさせました。それはまた、激しく画布とせりあう瞬間の、作り手の感情そのものを、鑑賞者に手荒くぶつけるものでもありました。
一九六九年から五年の間、七十歳を前にしたデ・クーニングは、大小さまさまな彫刻を集中的に制作します。それらは、いわば肉感たっぷりだった彼の絵画が、まさに立体物の肉と化したかに見えるものでした。
この〈頭No.3〉にしても、骨格はほとんど無視されています。とろける絵の具と格闘した、あの筆づかいを思わせる作り方によって、この作品の溶解するような勢いは生み出されているのです。
人間のかたちが台無しにされた光景、そこには堕落や破壊への衝動を感じとることもできます。しかし同時に、この作品に満ちている流動のエネルギー、そしてぶちまけられた感情は、作者の生の熱意をも強く訴えかけてくるものとはいえないでしょうか。いまこの部屋で、私たちの目の前で、デ・クーニングが腕を動かし、粘土を練り上げる。そのあとにも先にも、どんなあらすじもない。私たちはただ、作者のからだの動きに目を奪われる。そんな、息もつかせぬような鑑賞を、デ・クーニングは要求しているに違いありません。
この作品は四月二十三日まで展示されています。
徳島新聞 美術へのいざない 県立近代美術館所蔵作品〈56〉
1995年3月9日
徳島県立近代美術館 竹内利夫
1995年3月9日
徳島県立近代美術館 竹内利夫