徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
アポロンの頭、台座付
1900-09年
ブロンズに鍍金
67.0×25.0×29.5
エミール=アントワーヌ・ブールデル (1861-1929)
生地:フランス
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ブールデルアポロンの頭、台座付
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エミール=アントワーヌ・ブールデル 「アポロンの頭、台座付」

安達一樹

 アポロンは、ギリシャ神話の神でゼウスとレトとの子です。光の神、太陽神であり、音楽や詩など芸術の神です。また闘争的な性格も持っており、その姿は格闘者としての肉体美の典型であり、ギリシャの理想的な男性美を代表しています。この作品の峻厳な顔立ちにはその性格がよく示されています。
 ブールデルは、近代のフランスを代表する彫刻家のひとりで、マイヨールとともに西洋近代彫刻の巨匠ロダンの次世代を代表する最も重要な彫刻家です。1861年、フランスのモントーバンに生まれ、トゥールーズの美術学校やパリのエコール・デ・ボザールで学んでいます。ブールデルは、一時期、経済的な理由からロダンの彫刻の下彫り工として働いていますが、ロダンの芸術を深く理解し、ロダンに深い敬愛の念を寄せています。1893年にモントーバン市の依頼を受けて着手した〈1870-71年の戦争におけるタルン・エ・ガロンヌ県兵士記念碑〉には、私的な感情の昂まりを重視した表現などを見ることができます。しかし、1900年に着手された〈アポロンの頭〉では、ロダン的な作風から離れ、以後の社会的な表現として通用するモニュメンタル(記念碑的)な作風が示されました。これを見たロダンが、「君は私を越えた」と語ったというエピソードは有名です。1910年には〈弓を引くヘラクレス〉をサロンに出品、ロダンの後継者、改革者としての地位を確立しました。1928年、ブリュッセル王立美術館で回顧展が開催され、翌29年に没しています。晩年には木内克や清水多嘉示など多くの日本人作家が教えを受けています。
 この〈アポロンの頭〉は、ロマン派からロダンに受け継がれてきた動的で劇的な表現から離れ、確固たる構造をもった秩序ある表現を目指したブールデルの転回点を示す作品です。ブールデルのノートには、ロダンの造型の本質を的確に把握してその内面性を保ちながらも、ロダンの影響から抜け出すための新しい探求としてアポロンを作り始めたことが記されています。ロダン風の生命観を宿す流麗な肉付けから抜け出し、偶然性に左右されない面、その造形に必要な構造、そしてその組み立てなどを求めた画期的な作品で、その後のブールデルの作品を特徴づけるモニュメンタルな造形はここから始まったといえます。特にこの作品ではアポロンのテーマが持つ男性的な性格と、熱情と抑制のバランスをとった造形の構築性が結びついて、力強い精神性が表現されています。
 ところで、この作品の制作年を見ると、1900年に始められ、完成が1909年となっています。9年間も作り続けたわけではありません。いくつかのバリエーションが時間を隔てて作られているのです。1900年に最初に制作されたものには、この作品のような台は付いていません。そして、顔の部分だけのもの、首の付いているものなどいくつかのバリエーションが1925年まで作られています。この作品は1909年に作られたキュビスム的な幾何学的形態の台座の付いたバージョンと呼ばれるものです。この台座も、頭部に劣らず美しいといわれています。また、作品の背後に回って見ると後頭部が一部抽象的に作られており、台座と併せて見ると、ブールデルの造型思考を考える上で興味深いものとなっています。
徳島県立近代美術館ニュース No.41 Apr.2002 所蔵作品紹介
2002年3月
徳島県立近代美術館 安達一樹