いきいkと解き放つ命の輝き展
いきいkと解き放つ命の輝き展

 この「いきいきと解き放つ命の輝き」展は、2017年度から毎年開催してきた「アール・ブリュット再考展」を引き継ぐ展覧会です。全国の障がい者福祉施設・アトリエにご協力いただき、そこで生み出された作品を紹介しています。
 今回は、優れた活動で知られる関西の施設、アトリエコーナス (大阪市)、片山工房 (神戸市)、たんぽぽの家アートセンターHANA (奈良市) の表現者たちの作品をご覧いただきます。3つの施設では、全国各地、海外の展覧会でも注目される作家が育っていますが、いずれも特別な指導者がいるわけでも、カリキュラムがあるわけでもありません。一人一人の人格と個性がまるごと認められる日々の信頼感が、作品を魅力的なものにしています。絵を描かずおしゃべりして帰ってもOK。施設を掛け持ちしてもOK。可能性は、その人らしさのなかから深まり、広がっていくという考え方があるからです。いきいきとした表現につながる秘密といっていいでしょう。
 大胆な表現も、繊細な表現もあり、色彩や描き方、素材なども一様でないことに驚かされます。その多様な作品を見ていくと、障がい者芸術の固定したイメージが変わる人もいるのではないでしょうか。創造力を育む関係や環境について想いをめぐらせ、またそれぞれの施設の表現の特徴も感じながら、お楽しみいただけたらと思います。

アトリエ紹介

アトリエコーナス

土屋紘加《カラ二-》

土屋紘加《カラ二-》2017年

吉川真美《ふたりの女の子とネコ》

吉川真美《ふたりの女の子とネコ》2005年

大川誠 Makoot(No.4)

大川誠《Makoot(No.4)》2012年

 大阪市阿倍野区にあるアトリエコーナスは、1993年につくられた「コーナス共生作業所」が前身です。障がいのある子を持つ母親たちが協力し、「どんなに重い障がいがあっても地域であたりまえに暮らす」という、ノーマライゼーションの理念をもとに設立されました。当初は内職仕事の作業所でしたが、「一人ひとりが自己を自由に表現するアート活動をしたい! 地域に開かれた場を作りたい!」という思いから、2005年に古い町屋を改築してアトリエを作り、アートを取り入れた活動をはじめました。
 アートの活動をはじめて3年頃から、そのエネルギー溢れる作品がフランスのパリで開かれた「アール・ブリュット展」など国内外で注目され、高く評価されるようになります。2011年には、名称を生活介護施設「アトリエコーナス」と変更し、活動を発展させてきました。現在、利用するメンバーは15名。なかにはパフォーマーとして舞台に立つ人もいて、さまざまな分野で活躍しています。
 出品作品からは、コーナスの作家が多様な個性を発揮していることが分かります。表そうとするもの、題材、画材、その使い方、制作にかける時間やこだわりなど、一人一人がほんとうに個性的です。自由に制作できる環境を整え、社会とのつながりを大切にし、アトリエを誰もが立ち寄れる日常的な交流の場としてきたことが、生き生きとした作家たちの表現を支えています。

アトリエコーナスからのメッセージ

 アトリエコーナスは大阪・阿倍野区で15人のメンバーが活動している生活介護施設です。コーナスがアートを始めたきっかけは、「一人ひとりが自己を自由に表現するアート活動をしたい!」という代表白岩の想いからでした。2005年にアート活動を始めて16年。絵を描く人も、おしゃべりをする人も、歩き続ける人も、ビーズをする人も、寝ている人も、作った作品を捨てる人もいます。作家自身も作品からわかる通り、とても個性的。過ごし方も好きな事も違う人だらけ。そして、その違いをみんなあまり気にしていません。コーナスはメンバーもスタッフも各々が自由に過ごしながらも、一緒にいる「場」になっているように感じます。
 できるならメンバーやコーナスのことを直接会って知っていただきたいのですが、距離的にも世情的にも難しいので、今回は作品から感じていただければ幸いです。「こんな人らがおるんやなー」とか「コーナスちょっと気になるやん」と思っていただけたら嬉しいです。
(アトリエコーナス アートスタッフ 笠松 彩菜)

片山工房

湯井亮《トミカプレミアムRS》

湯井亮《トミカプレミアムRS
日産スカイラインGT-RV・specII Nür(ベイサイドブルー)》2019年

藤尾タケル《無題》

藤尾タケル《無題》2020年

齋藤晴久《苔むす 水かけ不動尊》

齋藤晴久《苔むす 水かけ不動尊》2019年

 神戸市長田区にある片山工房は、2003年の設立時から、作品の制作以前に、利用者本人の「好きなこと」「やりたいこと」ができる場を目指し、活動を続けてきた施設です。アートの技術的指導などは行わず、カリキュラムもありません。続けやすいリズムを大切にした、安全でリラックスできる環境を整えてきました。
 現在の利用者は約40人。1人1台ずつ机がありますが、過ごし方はさまざまで、決まりはありません。ずっと集中して絵を描く人、お茶を飲みながらスタッフとゆっくり話をして帰る人、読書をする人など、まちまちなのです。公募展や作品展に向けて絵筆をとる人、個展に向けて制作する人もいます。そのような環境から、全国的に注目される作家が生み出されてきました。
 工房では、紙の大きさ、使ってみたい画材や色など、制作における一つ一つの過程で「本人が決めていくこと」を大事にしています。スタッフはニーズに寄り添い、その人に合った自助具、画材の使い方を、その人自身が「見出していくこと」をサポートします。
 ここでは、片山工房の特徴をよく示す5人の作家を紹介します。わずかに動く右足で、傾斜した台に置いた絵具入りの紙コップを蹴って表した人、ミニカーを描くという「やりたいこと」が見つかり、描き続けることで、技術や構成を年々充実させている人の作品などがあります。そのような作品は、障がい者芸術のあり方だけでなく、人間の創造性がどのようにして発揮されるのか、考えさせる力を持っています。

片山工房からのメッセージ

 障害のある方々に、アート(表現)が自己の持っている能力を最大限に活用できる手法と捉え、取り組んでいます。社会のスピードについてゆく事だけを目的とした団体ではなく、持って生まれた個性に着目することで、自己決定がしやすい場、「やれば何かが産まれる」ことで「明日が見える」を提供することが、社会とつなぐ場として必要と考え、常に「人」が軸を第一義に考えた工房です。
 自らの名前を書きたいという思いから、スタッフと考え挑戦していく過程を楽しみ生まれた、澤田隆司さんの右足でペンキの入った缶を蹴って流す技法が片山工房の創作の草分けとなりました。そして、絵を描きたいというシンプルな思いで絵を描き続ける齋藤晴久さん、松浦愛夢さん。自分の好きなものに、じっくり時間をかけ、とことんこだわって創作をする、湯井亮さん、藤尾タケルさん。他にも多くの方が片山工房でお一人お一人違う表現で、今日も「やりたいこと」を形にしておられます。
(片山工房アートスタッフ 久保遥)

たんぽぽの家

中村真由美《さる》

中村真由美《さる》2014年

伊藤樹里《JURIX WORKS》

伊藤樹里《JURIX WORKS》1998-2020年
展示は写真と異なった形になります。

福岡左知子《miamoo.》

福岡左知子《miamoo.》2010-2020年

  奈良市にあるたんぽぽの家は、1995年に、障がい者のアートをエイブル・アート(可能性の芸術)として捉える運動がはじまった施設として知られています。そこで生まれたアートの活動をさらに進めるため、「アートセンターHANA」が設立され、現在、約60名の障がいのあるメンバーが活動しています。「HANA」には絵画や立体、織りや陶芸のスタジオがある他、語りや演劇、身体表現などのパフォーマンスプログラムも展開。全国の障がい者施設でつくられたアートグッズや作品を紹介するショップとギャラリーも備えています。
 たんぽぽの家では、絵を描いたり立体をつくったりするだけでなく、「自分を表現できるモノやコト」をアートとして捉えており、軽作業が得意な人は商品のパッケージ作業を行い、休み時間のラジオ体操を日課にしている人はその時間を大切にします。作品も「自分を表現」するところから生み出されます。
 メンバーは、作家という仕事に誇りをもつ人、自身の想いを伝えるために表現する人、生き方そのものがアートになる人などさまざま。まさにアーティストの世界といえるでしょう。出品作を見ると、堂々とした大作の絵画作品がある他、コミュニケーションの一環として薬の殻を毎日周りの人からもらって集め、その行為を作品にしている人もいます。体の不自由さは説明されないと分からないほど、自由な線やタッチを見せる人もいます。スタジオからは、一人一人全く違う多様な表現が生みだされ、その共存が刺激となって、魅力的な作品が生み出されています。  

たんぽぽの家からのメッセージ

 たんぽぽの家にとってのアートは、自分を表現できるモノやコト。それは一人に一つだけとは限らず、変化していくものでもあります。本展に出品している伊藤樹里は、薬の殻集めをライフワークとしていますが、書家としても活動しています。中村真由美はポップで可愛いイラストを描きながら、写実的な絵画も生み出します。重度の脳性麻痺のある上野和子は還暦を迎えてから本格的に制作活動をスタートし、車椅子に乗りながら左足だけで絵を描いています。
 その人の個性や思想が反映され、それがかたちになったものを作品というのであれば、実に多様な彼らの作品は、私たちに多くの気づきをもたらしてくれるのかもしれません。脳性麻痺がある小松和子は二次障害による身体の変化にともない、作品のテーマを変えながら制作を行なっています。重度化する前は自分の好きな動物やインテリアをテーマにしていましたが、二次障害による身体の変化という人生の大きな転換を経て、命と環境の大切さを伝えたいという想いが芽生えました。本展の出展作品「いのち・未来への子供たち」は命と環境をテーマに描きはじめた2008年の作品です。また、この時期から作品に詩を添えるようになり、表現の幅も拡げていきました。
 今回出展している作品は色彩が豊かで、独特な形をしているものがたくさんあります。その色や形を楽しんでいただきながら、作品に宿る表現の物語にも関心をひろげていただければ幸いです。
(たんぽぽの家アートセンターHANA アートディレクター 吉永朋希)

開催概要

展覧会名

いきいきと解き放つ命の輝きアトリエコーナス、片山工房、たんぽぽの家の表現者たち展

会期

2021年2月11日[木・祝]から2月28日[日]まで

会場

徳島県立近代美術館

開館時間

午前9時30分から午後5時

休館日

毎週月曜日

観覧料

無料

主催

徳島県、徳島県立近代美術館、徳島県障がい者芸術・文化活動支援センター

特別協力

特定非営利活動法人コーナス アトリエコーナス、特定非営利活動法人100年福祉会 片山工房、社会福祉法人わたぼうしの会 たんぽぽの家アートセンターHANA

問い合わせ

徳島県立近代美術館〒770-8070 徳島市八万向寺山 文化の森総合公園☎ 088-668-1088

イベント情報

  • ゲストトーク

    • アトリエコーナス
    • 日時:2021年2月14日[日] 14時―15時
    • 講師:アトリエコーナス/コーナス代表理事 白岩高子、アートスタッフ 笠松彩菜
    • たんぽぽの家
    • 日時:2021年2月21日[日] 13時30分―14時30分
    • 講師:たんぽぽの家アートセンターHANA/アートディレクター 吉永朋希
    • 片山工房
    • 日時:2021年2月21日[日] 14時40分―15時40分
    • 講師:片山工房/アートスタッフ 川本尚美、榎宣雅、久保遥
    • 各回共通
    • 場所:徳島県立近代美術館蔵 ロビー(2階)
    • 参加料:無料
    • 椅子席:20席(要予約・先着順)
    • 備考:講師はオンライン出演となりました (ユーチューブでのライブ配信は中止となりました)。手話通訳・要約筆記有り。椅子席はお申し込みが必要です。
    • 申込方法:電話、FAXまたはメールで申し込み
    • 申込先:電話: 088-668-1088/ファックス: 088-668-7198/メール art@bunmori.tokushima.jp
  • 学芸員による展示解説

    • 日時:2021年2月11日[木・祝] 14時―14時45分
    • 講師:森 芳功(学芸員)
    • 場所:展覧会場
    • 参加料:無料
    • 備考:手話通訳・要約筆記有り。事前の申し込みは不要です。

アクセス

徳島県立近代美術館

  • 住所 : 〒770-8070 徳島市八万向寺山 文化の森総合公園
  • 電話 : 088-668-1088

JR徳島駅からバス利用

  • ■ 徳島市営バス3番のりば「文化の森」行き直通バスに乗車し18分、終点「文化の森」で下車。
  • ■ 徳島市営バス3番のりば「市原【国道55号バイパス(ふれあい健康館・富田橋通り)経由】」行きに乗車し25分、「文化の森」で下車
  • ■ 徳島市営バス2番のりば「法花【文化の森経由】」行きに乗車し16分、「文化の森」で下車。
  • ■ 徳島市営バス3番のりば「しらさぎ台」行き、「一宮」行き、または「天の原(入田)」行きに乗車し16分、「園瀬橋」で下車。徒歩約10分
  • ■ 徳島バス4番のりば「仁井田西」行き、または「佐那河内線 神山高校前」行きに乗車し16分、「園瀬橋」下車。徒歩約10分

JR文化の森駅からバス利用

  • ■ バス停「文化の森駅東」から「市原【国道55号バイパス(ふれあい健康館・富田橋通り)経由】」行きに乗車し7分、「文化の森」で下車。

徳島市営バス 徳島市交通局 ☎ 088-623-2154/徳島バス ☎ 088-622-1811

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