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「第I章 人間 ・労働者」の詳細情報
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テーマ名称 第I章 人間 ・労働者
展覧会名称 前田寛治の芸術展-詩情と造形-
説明 前田は留学中の一時期、労働者の肖像やコウジョウの風景、あるいはメーデーなど、労働運動や階級闘争を意識した作品を集中的に描いている。その背景に中学の同級生であり、後に急進的な思想「福本イズム」で、日本の共産主義をリードした福本和夫の存在があった。確かに、これらの作品を生み出すことになった最大の動機は、福本に示唆されつつ目を向けた、当時のパリの街の、貧しき工場労働者たちと、彼らを鼓舞し、階級闘争へと駆り立てていた共産主義のエネルギーにあったことは間違いないし、激しい勢いで押し寄せる労働者の一群を描いた《メーデー》や、おそらくストライキの場面を描写したのであろう《労働者》など、そういったテーマをtykusetu表した作例もあるが、ここで中心となっているのは、個々の労働者を、様々に駆使した表現で描き上げた人間像であったことも忘れてはならない。  しかしながら、他の人物画とこれらの労働者の像とが決定的に異なっている点は、そういった様々な表現が、それぞれの対象自体の美しさとか、たくましさとか、造形的な建築性などのために用いられるのではなく、それらの対象を通して、別の次元の主張―それがつまり、労働運動であり、階級闘争であるのだが―へと転じられていることにある。こういった象徴という方法は、日本の洋画家にとって最も不得手な表現であったし、前田もそれを目的としたわけではなかっただろうが、木のテーブルを前に座る《二人の労働者》も、丸めた背を向けて腰掛ける《労働者》も、彼らの境遇のあり方と、それに対する強い反発の意志とをはっきりとそこに暗示させる。もちろんこれをあからさまに行えば、それは後の社会主義リアリズムのような安易なアジテーションの絵画になってしまうが、前田は、彼らの表現や仕草、そして身につける種々のもの、さらには背景の付属物に至るまでを、巧みな表現を用い、注意深く描出することによって、全体としてひとつの理念、思想へと、我々を静かに導いていくのである。
コピーライト 徳島県立近代美術館 2006
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