説明 |
ベン・シャーン(1898-1969年 リトアニア出身)は幼少の時に家族と共にアメリカへ移住。以後、アメリカを主要な活動の場としました。彼は1929年の世界恐慌の体験を通して、社会に対する抗議の絵画を発表し続けるなど、社会派の芸術家として活躍します。また、ジオットやクレーの様式を取り入れながら、アメリカの風土と民衆の情感を、油彩、水彩、壁画、リトグラフ、舞台装置など幅広い領域で表現し、また写真家、ポスター作家としても活躍しました。
この版画集はドイツの詩人リルケの唯一の長編小説『マルテの手記』に想を得たもので、各作品はこの中の言葉に対応した作者の断想を絵にしたものです。『マルテの手記』とはリルケのパリ時代の日記、手紙、備忘ノート、断片的感想などを一冊にまとめあげた手記体の小説で、デンマークの貴族の家に生まれた若き無名の詩人、主人公マルテを通じて語られる作者の内的黙想の記録です。
シャーンは詩は感情ではなく経験であるというリルケの言葉に深く共感していました。そして、『マルテの手記』と出会ったのは1920年代のパリであるにもかかわらず、あたかもそれを実践するかのように詩の前年にようやく作品化したのです。 |