ユーゴウ団 meets Art exhibition 美術と音楽の共存の可能性

美術を楽しむ・わたくし流
2010年11月28日

鑑賞と鑑賞の融合

 若々しい創作の予感に満ちたひとときでした。絵や彫刻の並ぶ空間を、ひとまとまりの音楽装置として働かせようとする、与那覇さんたちの意欲的な目標設定に感動したし、心からエールを送りたいと思います。

 プログラムの前半は、エガミシンイチさんの電子音楽とピアノ。頭部のないアバカノヴィッチの群像、マリソルの彫像、ユンソクナムのベンチが居並ぶ緊張の空間を、彼は流れていく時に置き換えます。メロディアスな「湖畔」に続いて演じられた新曲「回想」は、「激動の時代を生きてきたアーティストたちの信念」を想い、作ったそうです。ただしそれはリソースの一つであり、一番大切にしたのは、この展示空間と最初に出会った時の印象、直感とのこと。
 電子音のループと微妙なブレと共鳴を味わうように、一つ一つの音を奏でるエガミさんのパフォマンスは、彼が言うようにそれぞれの歴史を背負ってきた作品たちのこわばる表情と、静かに向き合い、どこか癒すような、つぶやきの場を形成していたように思います。彫刻作品の形相からして、寡黙な熟考の場面を想像しがちなこの展示空間のムードを、予想外に肉感的でハートフルなものに変容させていました。
 作品に囲まれる形で、アトリエ風にコードやボックスを散らかしたステージも、なかなか劇場効果を上げていたと思います。特異な風貌の彫刻作品とその空間に、素肌で触れるような演奏でした。

 後半は与那覇さんの演目二つ。「書き物をする娘」は、絵の解説文を使った実験作。大沢昌助の絵のモチーフ、描き方、作家の生い立ちなどを述べた即物的なテキストに沿って演奏が進行します。コントラバスとクラリネットのデュオが、ゆっくりと線を引くように、上向きに、下向きに、一本で、交差して、だんだんにリズムと色味を感じさせていきます。
 朗読の岡崎さんは「詩とは異なる伝え方を考えた」といいます。竹内(筆者)による原文は、絵柄の様子を平明に読者とたどるもので、およそ暗示や象徴とは遠い内容です。このテキストの使い方にはうなりました。聞いていて「跳べない」のです。言葉のイメージや余白がずんずん広がるような、詩の口演を無意識に期待するせいかも知れません。芸のない自分の文章だということをひいても、これまで見聞きしたことのないタイプの演じ方に、呆然としたことです。
 しかしそれこそがこのパフォマンスの、また与那覇さんの制作のキラリと光るところ。「絵や演奏者、展示壁面も全て含めて、一つの表現に」というのが彼の設定した課題でした。果たして、メロディは動いたり休んだりしながら、展示空間をタイムラインにしていきます。そこに朗読も取り込まれる。一つの楽器として。その休符の時には、絵の中の色や形、それが描かれた時のこと、制作の背景までが、イメージの世界に広がっていきました。これが、この演目の「跳び方」なんですね。

 二つ目の「孤独な詩人」は、デ・キリコの彫刻に与那覇さんが詩をつけたもの。彫刻作品の性格、展示空間の性格、美術館の収蔵庫や展示室を俯瞰する視線などがオーバーラップしていく不思議なテキストです。管と弦にカホンを加えたトリオと朗読が、デ・キリコの置かれた壁面で横並びに演奏します。ちょうど作品同士の間に演奏家が入り、数が倍に増えたような楽しさ。
 こちらは一転、美術作品の輪郭をたどる印象ではなく、むしろ彫刻の置かれた景色、そして私たちが同居しているこの空間の様子を楽譜化したような、広がりを感じます。断続的に繰り返されるバスのアルペジオと太鼓は、グルグルと輪転する大時計の歯車が行ったり戻ったりするよう。神秘的なクラリネットの旋律も、無限の回廊をこだまするかのようです。そして朗読の中性的な響きは、デ・キリコの顔のない、建築装飾に融合したような不可思議な彫像に、いかにも似つかわしいムードをたたえていました。

 当日の演奏者からのコメントとして、エガミさんは「鑑賞のBGMとして」といい、与那覇さんは「順番に作品を見る流れの中に音楽があるように」といい、美術鑑賞の空間と演奏の関係づくりが眼目であることを伝えてくれました。ただこの点については、通りすがりのオーディエンスに対して、企画側の私から楽しみ方をもう少し説明しておいてもよかったように思いました。
 美術館で音楽というのは、今日珍しいものではなくなっています。それが繰り返し企画されるのは、いつもと違った美術館のムードが生まれることを、人々が小粋で愉快なことだと感じるからでしょう。そうしたいわゆるミュージアム・コンサートに、異なる表現分野の出会いの面白さを加えたのが、この「美術を楽しむ・わたくし流」のシリーズです。
 ユーゴウ団の取り組みは、その出会いのどこに可能性があるのか、等身大に踏み込んだ意欲作だったと思います。あくまで音楽、美術、文学など異なるジャンルの「鑑賞」には質の違いがあります。別物同士の出会いとは、基本的に取り合わせのハーモニーを楽しむことになるのだと思います。喩えや象徴を介した交流といえるでしょうか。その「違うからこそ面白い」の一線を侵してみたい、というのがこの演奏家たちの冒険であったように思うのです。
 与那覇さんとの出会いは一年前の「チャレンジとくしま芸術祭」での演目でした。朗読が音楽として扱われる様子に恋したものです。勝手解釈かも知れませんが。音楽と文学また美術が、どちらが主役でどちらが背景ということではない、あるいは音楽劇とも朗読劇とも一歩違う何かを、彼が探しているように思えました。私もそれを探し続けていたいと今考えます。(専門学芸員 竹内利夫)

美術を楽しむ・わたくし流
ユーゴウ団~meets Art exhibition
美術と音楽の共存の可能性

2010年11月28日[日] 11時、14時
徳島県立近代美術館 展示室1・2

ユーゴウ団

プログラム
 与那覇吉哉、エガミシンイチ
演奏
 エガミシンイチ(キーボード)、与那覇吉哉(コントラバス)、
 岸本亜耶乃(カホン)、本田あゆみ(クラリネット)、
 岡崎好恵(朗読)
演目
 「湖畔」、「回想」(エガミシンイチ)
 「書き物をする娘」、「孤独な詩人」(与那覇吉哉)

担当:竹内利夫(専門学芸員)

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