T R A U M   V O N   W I E N    G R A P H I S C H E   K U N S T E   I N   W I E N   U M   1 9 0 0

   

 

1. ウィーンの街角から

 

 ウィーンといえば音楽の都、ワルツとオペレッタにバロック建築と石畳の古風な街並み、皆さんのイメージはどんなものでしょう。世紀末ウィーンとなれば、やはりクリムトの華麗な装飾画が定番といった感があります。

 今回の展覧会は、ウィーンのちょっと変わった一面をご覧いただける企画です。世紀末の街角や書斎で人々を魅了したイラストや装飾をご紹介―とここまではよくあるデザイン展と同じですが、それをクリムトなど限られた作家から追うのではなく、文字通り人々を魅了したウィーン、つまり当時の人が愛したウィーン趣味を探ろうという、ありそうでなかったユニークな中身となっています。

 愛と死をみつめたシーレやクリムトの退廃的なイメージ、既存の画壇を脱しウィーン分離派を結成した作家たちの訣別といったキーワードで、この年代の美術動向は語られるのが一般的です。そこにハプスブルグ家の凋落と古き良き時代への追憶、というおきまりの背景説明があいまって、紋切型のウィーン世紀末像ができあがります(旅行会社のガイドブックなどを見れば一目瞭然)。

 実は、ちょっと変わった一面だけをウィーンの姿と思い込んでいるのが私たちなのかも知れません。人々の心を実際に満たしたもの、グラフィック・アート(印刷芸術)の受け手であった人々が夢見たものを、この展覧会では圧倒的な量の作例を通して、同じ視線から味わってみたいと思うのです。