T R A U M   V O N   W I E N    G R A P H I S C H E   K U N S T E   I N   W I E N   U M   1 9 0 0

   

 

3. 書斎の話

 

 この展覧会は、ウィーン/書斎/夢の3部構成となっています。ウィーンの人々が愛したウィーンの情景、そして好んで描かれたメルヘンや夢の世界といった、グラフィックの題材をつぶさに一望するかたわら、第2部の書斎コーナーでは100点余りの魅力的な装丁を集めています。

 19世紀後半の豪華本の流行にはじまり、世紀末をはさむこの時代に書籍の装飾デザインは大いに隆盛します。手工芸の粋を極めた造本技術や、印刷職人とデザイナーの格闘ぶりを伝えるページデザインには、いまや二度と再現できないであろうグラフィックの黄金時代を感じて頂けることと思います。

 そうした活況を支えたのがこの時代に新興した市民層であり、持ち家を構え、好みのインテリアにしつらえた私的な空間を所有することは、そのステイタスを示すものでした。没落する貴族に変わって、この市民層が美術や工芸の(プチ)パトロンとなったのです。

 そうしたグラフィック愛好の象徴として、本展は書斎をキーワードに選びました。カレンダーや蔵書票といった小物から絵本のデザインや本の背表紙など、持ち主の身近な視線を意識したつくりそのものが、極めて濃密なヴィジュアル・コミュニケーション(視覚伝達)であることに気付かれるでしょう。巨大なポスターや建築の装飾画とは違った、手の平サイズのセンスがそこに息づいています。