徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
メナム河畔に出現する水族館
1967年
油彩 キャンバス
185.4×270.3
宇佐美圭司 (1940-)
生地:大阪府
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宇佐美圭司メナム河畔に出現する水族館
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宇佐美圭司 「メナム河畔に出現する水族館」

仲田耕三

 宇佐美の作風は、初期の抽象作品から人体シリーズへと展開していますが、具象から抽象へと展開するスタイルとは、少し異なっています。二十四歳の若さで第三回国際青年美術家展でストラレム賞第一席を受賞、翌年ニューヨーク近代美術館に招待出品されるなど、早くから注目されていましたが、このころはアンフォルメルや抽象表現主義の影響の強い作品を描いています。一九六五年ごろからは、宇佐美の分身ともいえる限定された四つの人型を用いた作品で「絵画の在り方」を一貫して追求するなど独自のスタイルを展開し、現在最も注目されている作家の一人と言われています。
 県立近代美術館で開催中の「所蔵作品展94-III 人のかたちと表現」に来年の一月二十二日まで展示されているこの作品は、人体シリーズの中でも最も初期にあたる連作「水族館」のうちの一点ですが、第八回現代日本美術展に出品され大原美術館賞を受賞、第三十六回ヴェネツィア・ビエンナーレにも出品されました。
 この時期の作品は、一九六五年十月、ライフ誌に掲載されたロサンゼルス・ワッツ地区の黒人暴動の写真から取り出した投石する人、かがみこむ人、たじろぐ人、走り去る人の四つの人型の組み合わせによるバリエーションにより、構成されています。
 「この写真から今日まで変わらず使い続ける四人の人型を抽出するようになるとは想像もしていなかった。人間が風景を渡っていく。舗道は肉体を形成し、肉体は街に飛び散る。そこに私がおり、私が39セントのカンバンに、街路樹に、駐車されたトラックに移行する。風景とあや織りになる人間の状況を、当時私はその写真の中に見ていたようだ」(「回想ノート」)と当時のことを語っていますが、人間の顔を持たない人型は、互いの身体とそれを取り巻く街との関係を一段と象徴化しています。
 四つの人型は、今日も宇佐美の作品の原型となっていますが、人型は球や円錐(えんすい)形などの幾何学形態と組み合わされ重なり合わされながら、相互関係を表現する記号へと昇華しています。
徳島新聞 美術へのいざない 県立近代美術館所蔵作品〈49〉
1994年12月18日
徳島県立近代美術館 仲田耕三