井上長三郎　「しののめ」

竹内利夫

　アトリエでうたた寝する作家の姿だろうか。
　褐色にまとめられた構成は静かに重い。画中の人も横たわる人も、いたって堅牢、寡黙だ。生の匂いを欠いた、静物のような、まるで亡骸のような人間像。
　作家の心情をのぞかせるようなものは何もないが、確かな存在感だけは受け取れる。暗い時代にも堂々と自らの課題に打ち込んできた歩みを、ふと振り返るひと時だったのかも知れない。