徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説
渇きとスピード
1988年
木(楠) 大理石
83.0×55.0×33.0
1988年
木(楠) 大理石
83.0×55.0×33.0
舟越桂 (1951-)
生地:岩手県
生地:岩手県
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舟越桂渇きとスピード
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所蔵作品選1995
舟越桂 「渇きとスピード」
安達一樹
立体作品の材料としてよく知られているのは木です。木は大昔から日本人にとって身近にある造形材料として、道具や家などを造るのに利用されてきました。材料という観点に立てば、日本の文化は木の文化であったともいえるでしょう。一口に木といってもたくさんの種類があります。すぐに、ウメ、サクラ、カキ、リンゴ、マツ、スギなど幾つもの名前をあげることができます。材料として有名なものをあげれば、たんすにはキリ、ふろにヒノキなどがあります。これら材料として用いられる場合は、それぞれの木の持つ性質が、キリであれば伸縮や割裂などの狂いが少なく、吸湿性も少ない。ヒノキであれば、ち密で光沢があり、耐水性に優れていることから利用されているわけです。
まさに適材適所といったところですが、日本人はこのような知識を昔から持っていたようです。非常に古い例としては日本書紀にでてくる素戔嗚尊(すさのおのみこと)の説話で、日本によい材料がないことを嘆いた素戔嗚尊が自分のヒゲや眉(まゆ)毛を抜いて地面にまくと、それらがスギやクスノキなどの木となり、続けてそれらの用法を定めて、スギとクスノキは船に、ヒノキは宮殿に、マキは棺に使うようにと、具体的に木の種類とその用法を記していることです。加えて大変興味深いことは、これらの話が考古学的な立場からの調査と一致することです。古墳から発掘される木棺はマキで造られ、船はクスノキかスギで造られていることがほとんどだそうです。
このように古くからさまざまに使われてきた木は、立体造形の分野では近代以前は仏像に多く使われてきましたが、現代においても多くの作家によって使われています。使われかたも多様で、木を「木のイメージ」のまま、そこに手を加えて新しい世界を構成させる戸谷成雄から、製材された材木として使った斎藤義重、生物材料のもつ生命感を示す鈴木実、木製品のもつ叙情性を利用した神山明、廃材を用いた杢田たけをや土屋公雄などまであります。
美術館には若手作家の一人である舟越桂の「渇(かわ)きとスピード」という作品がありますが、これは若いロックミュージシャンをモデルにした半身像です。作者は本当に思い入れて造りたいと思った人間だけを造るということで、モデルと作家の思いが一体となった作品には、クスノキという硬材の持つ質感とあいまって、一種神秘的な雰囲気が生み出されています。
徳島新聞 県立近代美術館 12
1990年12月26日
徳島県立近代美術館 安達一樹
1990年12月26日
徳島県立近代美術館 安達一樹