徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説
ある種の関係
1966年
ドライポイント、ルーレット、エングレーヴィング 紙
45.5×41.0
1966年
ドライポイント、ルーレット、エングレーヴィング 紙
45.5×41.0
池田満寿夫 (1934-97)
生地:中国奉天(現中国遼寧省瀋陽)
生地:中国奉天(現中国遼寧省瀋陽)
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池田満寿夫ある種の関係
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20世紀の版画展
池田満寿夫 「ある種の関係」
吉原美惠子
版画とひと口に言っても、その技法によって何種類にも分類されます。ふつうは木などの版面を彫って凸部をつくり、凸部にインクや絵の具をのせて紙などに写しとる方法をまず思い起こします。これは凸版とよばれる版で、版が木であるならば木版画、ゴムやリノリウムであるならばリノカットとよばれます。反対に版面を彫ったそのくぼみにインクを詰めて紙などを上に置き、圧力をかけて写しとる方法は凹版とよばれます。版面に凹部をつくるときに、刃物などを用いて物理的な力で凹部をつくる方法と、酸などによる化学的な変化を利用して、版面を腐蝕(しょく)させて凹部をつくる方法に大別されます。金属の版材によく用いられる方法で、銅版画が最も一般的に親しまれており、技法の豊富な点ではおそらく最たるものでしょう。たとえば、彫刻刀で版面を削り取ってゆく方法はエングレイヴィングとよばれ、これは銅版画の最も伝統的な技法です。ニードルなどの針で引っ掻(か)いて、凹部とともにささくれを残す技法は、ドライポイントとよばれます。この場合、ささくれにのったインクも刷りとるため、にじんで表現に深みがでます。このささくれをもっと細かく、版画をおおうようにして、必要のないささくれを削り取ることで濃淡の調子を表現する方法もあります。この技法はメゾチントといわれ、色の微妙な調子をうまくつくり出すことができます。また、酸や防蝕剤を用いて製版する方法に、エッチングやアクアチントがあります。版面に塗った防蝕剤の上から金属などで傷をつけてその部分を腐蝕させ、そこにインクを詰めて刷りとるものです。エッチングは線的表現に、アクアチントは面的表現に適しています。これらの他にも、版面で水と油のはじき合いをうまく利用して平面上にインクをのせて転写するリトグラフや、シルクスクリーンに代表されるように版の孔を通したインクを刷りとる孔版などの新しい技法もあります。ここで池田満寿夫(1934年-)の1960年代の作品をみてみましょう。この時期の作品は、ビュラン(彫刻刃物)やニードルによるドライポイントの技法で制作されています。直接的で単純な技法ゆえに、作家の気合いが十分伝わってきます。技法の特製をよく生かした作品のひとつです。
展示室2では、これまで収集してきた千五百余点の現代版画の作品により、ますますその可能性を広げている版による表現の世界をいろいろな角度から展覧しています。
徳島新聞 県立近代美術館 05
1990年11月7日
徳島県立近代美術館 吉原美惠子
1990年11月7日
徳島県立近代美術館 吉原美惠子