徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説
第6回東京国際版画ビエンナーレ展
1968年
オフセット 紙
108.0×76.0
1968年
オフセット 紙
108.0×76.0
横尾忠則 (1936-)
生地:兵庫県
生地:兵庫県
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横尾忠則第6回東京国際版画ビエンナーレ展
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横尾忠則 「第6回東京国際版画ビエンナーレ展」
竹内利夫
1968年に開催された第6回東京国際版画ビエンナーレ展で、野田哲也の「日記」という作品が国際大賞を受けたことについて、前回触れました。今回ここに掲載する図版は、その第6回展のためのポスター(県立近代美術館蔵)です。展覧会のポスター、チケット、図録などのデザインを一人のデザイナーが統一して受け持つことは、第1回展からの慣習となっていました。第6回展では、横尾忠則が担当したわけです。
さて、このポスターは横尾の特異な作風もさることながら、別の点で話題を呼びます。この展覧会で国際大賞を得た野田哲也の作品は、写真製版を用いて家族の写真を印刷するというものでした。そしてこの横尾のポスターにも、同じように家族の写真が使われています。盗作騒ぎというのではなくて、デザイナーと版画家が、似たような造形上の発想をしたということが物議をかもしたのです。
またこの年の出品作には、写真製版によって既製品の図像を活用するという、広告の手法にも通じるような作風が目立ちました。さらに、若手のデザイナーとして既に有名であった永井一正の版画作品が、東京国立近代美術館賞を受賞しています。そうしたことから、デザインと版画が接近したなどという声も聞かれました。そこで横尾のポスターは、その象徴のごとくとらえられたのです。
版画技法が今日の印刷技術の源流にあたることを考えれば、ポスターも版画も広い意味で印刷物であることに変わりありません。とすれば、版表現に最新の印刷技術が活用されること自体には何の不思議もないといえます。例えば、19世紀末にロートレックが描いたポスターや、日本の浮世絵版画も、当時としては最新の印刷技術を駆使したものでした。そこでは、商業的に求められる大量生産の技術と優れた造形表現とが、巧みに結びついていたのです。
そして、表現と技法が密接に結びつく版表現において、同じ印刷技術を用いれば近い表現効果が現れることも、容易に想像できることです。
ただし実際には、野田と横尾の表現は家族の写真を扱ったという以外に、何の共通点も持ってはいません。また、デザインと版画に関する議論も、しばしば表面的なものだったようです。むしろそこでは、先端技術の洗礼を受けた現代版画が、従来の常識的な版画観からどんどん逸脱していくことへの驚きが、ある1枚のポスターに向けられていたのだというべきなのでしょう。
徳島新聞 県立近代美術館 40
1991年7月10日
徳島県立近代美術館 竹内利夫
1991年7月10日
徳島県立近代美術館 竹内利夫