徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説
第6回東京国際版画ビエンナーレ展
1968年
オフセット 紙
108.0×76.0
1968年
オフセット 紙
108.0×76.0
横尾忠則 (1936-)
生地:兵庫県
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横尾忠則第6回東京国際版画ビエンナーレ展
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徳島新聞連載1990-91
横尾忠則 「第6回東京国際版画ビエンナーレ展」
竹内利夫
東京国際版画ビエンナーレ展は、1957年に創設され、以後回を重ねるごとに、次々と実験的な版表現が提示され活況を呈していました。毎回一人のデザイナーが選ばれポスターや図録を統一的に手掛けており、1968年の第6回展では、横尾忠則が抜擢されます。既に若手デザイナーとして注目を集めていた横尾は、この前年にはニューヨーク近代美術館に作品が収蔵され、またこの翌年にはパり青年ビエンナーレ展で個人賞を受けるなど、30歳そこそこにして油の乗りきった時期での依頼でした。安っぽい絵はがきのような浜辺の風景と、ごくありふれた家族の肖像写真。その平凡きわまるイメージが、鮮烈な蛍光インクの色面対比により、まず私たちの眼に焼き付いてきます。そして錦絵を連想させる水平線のぼかし、筆書きの文字、画面下方に記されたサインと印。理知よりは情念を重んじ、芸術的であるよりは低俗で下品なものを好んでモチーフに選んだ、1960年代の横尾の作風がここでもにじみ出ています。それは、画一的な合理性を信奉し、商業主義にまみれた当時のデザインまた社会に対する、横尾のデザイン観の表明でもありました。
画中に引用されたアレン・ジョーンズとアントニオ・セギの作品図版は、退屈な画面構成に違和感と入り混じった活気を呼び、画面左方に配された欧文のデタラメな文字組や、周囲に残されたままの色見本とトンボ(印刷工程で利用される目印)が、予定調和的な完成を抑制し、かえって生々しい訴求力をポスターに与えています。
横尾は、俗っぽきと斬新な視覚効果を自在に操りながら、ポスターを通じて、版画家たちよりもさらに強く大衆の芸術観に衝撃を与えることをもくろんでいたのでした。実際、入場券や図録にも展開していった横尾のイメージは、強烈な印象で展覧会全体を包み込んで、グラフィック・デザイナーの存在感をまざまざと観客そして版画家たちに訴えたのです。「このポスターこそ国際大賞に値する」といった当時の論評が、その影響の大きさを物語っています。
徳島県立近代美術館ニュース No.4 1992.12 表紙作品解説
1992年12月15日
徳島県立近代美術館 竹内利夫
1992年12月15日
徳島県立近代美術館 竹内利夫