徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説
伊太利ヴェロナの古橋
1920年頃
水彩 紙
49.7×66.5
1920年頃
水彩 紙
49.7×66.5
三宅克己 (1874-1954)
生地:徳島県徳島市
生地:徳島県徳島市
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三宅克己伊太利ヴェロナの古橋
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三宅克己 「伊太利ヴェロナの古橋」
森芳功
三宅克己(1874-1954年)は、日本の水彩画の歴史に大きな足跡を残した人物です。とくに、今世紀初めごろ、水彩画の1大ブームがおこったとき、活発に作品を発表するだけでなく、技法書を刊行するなど指導的立場で活躍しました。それに対して、後半生は時流から離れた画業であったため、没後十分な評価を受けてこなかった面がありました。しかし、近年、近代の水彩画を見直そうとする動きもあって、三宅の作品を出品する展覧会も各地で開催されるようになっています。県立近代美術館は、県出身の作家に正当な光をあてることを大切な仕事としています。三宅もそのひとりとして、いろいろな形で取り上げてきました。近代美術館の開館前から収集をおこない、1991年には、彼の作品を中心とした展覧会を開催しています。さらに、その後も作品の収集につとめてきたことから、コレクションも年々少しずつですが充実しています。展覧会開催時には所在の分からなかった作品も集まってきており、その成果は、これまでも毎年の所蔵作品展でそのつど紹介してきました。
今開催中の「所蔵作品展94-I」(7月17日まで)では、昨年度に収集した作品をまとめて紹介しています。そのなかに、新しくコレクションに加わった三宅の水彩画、〈伊太利ヴェロナの古橋〉〈名張川の投影〉そして、最も初期のデッサンである〈和田栄作君の像〉を見ることができます。
〈伊太利ヴェロナの古橋〉は、彼の作品のなかでも大作に入るものです。油彩画の号数でいえば15号程度の大きさに過ぎませんが、力のこもったスケールの大きな表現です。石橋のつくるアーチを手前に置き、そのアーチの間からヴェロナの街並みを望む、彼がたびたぴ用いたお気に入りの構図が使われています。細かく描いたモチーフをうまく組み合わせ、画面を実際よりも大きく感じさせる作品に仕上げています。明るいさわやかな色彩の表現も魅力的な点でしょう。
三宅は、海外旅行が大変だった時代にもかかわらず海外での制作を活発におこない、ヨーロッパ旅行だけでも六度経験しています。これは、大正期にイタリアに旅したときに描いた1点です。大正期は彼にとって、すぐれた作品を数多く生み出した時期ですが、この作品を見ても充実ぶりをうかがうことができるはずです。
徳島新聞 美術へのいざない 県立近代美術館所蔵作品〈35〉
1994年5月13日
徳島県立近代美術館 森芳功
1994年5月13日
徳島県立近代美術館 森芳功