徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
伊太利ヴェロナの古橋
1920年頃
水彩 紙
49.7×66.5
三宅克己 (1874-1954)
生地:徳島県徳島市
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三宅克己伊太利ヴェロナの古橋
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三宅克己 「伊太利ヴェロナの古橋」

森芳功

 水彩画といえば、だれもが一度は描いたことのあるなじみのある分野ではないでしょうか。もともとは、西洋の画材であった水彩絵具を、日本でも近代以降の作家たちが画材として用い、普及させることで、次第に身近な存在としてきたのです。
 徳島市で生まれた三宅克己(1874~1954)は、その功労者の一人と言えるでしょう。20世紀の初頭に、水彩画の爆発的なブームが訪れますが、彼は、そこで中心的な役割をはたしたのです。油彩画家の余技と考えられていた水彩画を独立したジャンルに高めようと努め、一般への普及にも力を注ぎました。
 しかし、彼の作家生涯は、「絵行脚」の連続だったと言えます。日本国内は言うまでもなく、各地を旅し水彩画を制作しています。今日と異なって、海外旅行が大変だった時代にもかかわらず、アジアの国々をはじめ、アメリカへは2度、ヨーロッパには6度にわたって取材に出かけています。
 この「伊太利ヴェロナの古橋」(水彩 紙 48.5センチ×65.8センチ)は、大正期にイタリアで描かれたもので、彼の作品のなかでは比較的大きなものです。アーチを形づくる石橋を手前に置き、そのアーチの間から遠景の町並みを望む、彼がたびたび用いたお気に入りの構図が使われています。細かく描いたモチーフをうまく組み合わせることで、画面を実際よりも大きく感じさせる作品に仕上げています。透明な絵の具をやわらかく重ねた、明るくさわやかな色彩も魅力的な点でしょう。
 すでに、水彩画ブームは去っていましたが、彼にとって、この作品を描いた大正期は、すぐれた作品を生みだす実りの時期だったのです。
毎日新聞 (四国のびじゅつ館)79 
1997年3月15日
徳島県立近代美術館 森芳功