徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説
青いカーテンのある頭部
1981-82年
アクリル絵具、木 板
181.5×188.9
1981-82年
アクリル絵具、木 板
181.5×188.9
ホルスト・アンテス (1936-)
生地:ドイツ
生地:ドイツ
データベースから
アンテス青いカーテンのある頭部
他の文章を読む
作家の目次
日本画など分野の目次
刊行物の目次
この執筆者の文章
ホルスト・アンテス 「青いカーテンのある頭部」
友井伸一
人間の容姿やスタイルはさまざまです。身長、体重、その他の面で違いがあるのは当然ですが、この絵の人は、ずいぶん大きな頭をしています。そして、上着を着ているのでなかなか気が付きませんが、足の長さに比べて、胴体のバランスがどうも変です。よく見ると、まるで胴体がなくて腰の上に直接肩が乗っかっているように思えてきませんか。そう考えているうちに、この人がいる部屋のような所も、実は大きな頭の形をしていることに気が付くでしょう。この人は何をしているのでしょうか。スリッパをはいている足元には蛇のようなものがいて、ホースのように口から水を噴き出しています。また、左の方には青いカーテンが掛けられています。どうやらシャワー室のようです。両手を胸、いや腰の前で合わせているのですが、その手の中には白いものがあります。シャボンの泡かもしれません。力ーテンの向こうにはだれかいるのでしょうか。画面中央の下の方には、赤い円が思わせぶりに描いてあります。でも、これは赤く塗った輪をはりつけてあるのです。
なぞの多い作品です。ここで、1つの仮説を立ててみましょう。この人は、人間ではなく、人類に頭脳と歩行することを授けに来た、原初の世界からの使者だとします。赤い円は、無限に循環する時間と、調和のとれた宇宙を意味します。蛇は男性器の象徴でしょうか。だとすると、赤い円はむしろ男女和合の象徴なのかもしれません。力ーテンの向こうには、おそらく母なる生き物がいるのでしょう。つまり、この作品は、人類が生まれ、万物が生成する営みの原理を描いていることになるのです。この仮説は、一見でたらめな話のようですが、アンテスの世界の住人となるには、このぐらいの想像力や妄想が必要です。そして、この説は案外アンテスの本質を言い当てているのです。
アンテスは、人間の心をその根源までさかのぼって行き、この生き物に出合いました。彼が描く、人間に似た、頭でっかちの生き物は、古代エジプトの壁画の人物のように、横を向いたまま、めったなことでは正面を向かず、その正体を明らかにしません。そして、シャワーを浴びている人が気付かぬうちに、この生き物はそっと近寄ってきます。妖怪みたいで少し気味が悪いのですが、無口なこの生き物は、確実に何かを人間に授けに来ているのです。そこからあなたは、どんなメッセージを受け取るのでしょうか。
徳島新聞 美術へのいざない 県立近代美術館所蔵作品〈29〉
1994年3月12日
徳島県立近代美術館 友井伸一
1994年3月12日
徳島県立近代美術館 友井伸一