徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
学芸員の作品解説
マルタ/フィンガーペインティング
1986年
油彩 キャンバス
61.2×51.2
1986年
油彩 キャンバス
61.2×51.2
チャック・クロース (1940-)
生地:アメリカ
生地:アメリカ
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クロースマルタ/フィンガーペインティング
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所蔵作品選1995
徳島新聞 美術へのいざない
チャック・クロース 「マルタ/フィンガーペインティング」
安達一樹
私たちが作品を鑑賞するということは、どのようなことなのでしょうか。もう少し問題を簡単にすると、私たちは作品を見ているとき何をしているのでしょう。もっと単純にいえば、見るとはどういうことなのでしょう。チャック・クロースは、親しい人のポートレートを描き続けています。描き方は、基本的には、写真をもとにして、それをキャンバスに転写するように描いています。変わっているのは、その取リ組み方です。ひとつのスタイルを決めて、様々な人を描いていくのではなく、ある人を、それも1枚の写真をもとに、様々な方法で描いていくのです。その描き方は、例えば、エアブラシを使って、見る人が写真と誤解するくらい写真に忠実に描いてみたり、カラー印刷のように色を三原色に分解して塗り重ねていったり、そして、この作品のように、指に絵の具をつけて捺していったりするなど様々な方法をとっています。
では、どうしてこのように手の込んだことをするのでしょうか。それは、彼の主題が人を描くことにあるのではなく、認識を問題としているからです。彼自身、次のように語っています。「・・・いろんなシステムを使って執拗に同一人物を描き、容貌にどんな変化が起こるか・・・いかにしてほんのちょっとした変化が、ものの認識のきれ方に甚しい相違をもたらすのかみる。」*
ここに、見ることに対する彼のひとつの提示があります。見るという行為は、色や形など絵画として画面上にちりぱめられた視覚情報を記号として受け入れ、それらの情報を総合して判断し、意味を与えることであることを示しています。この作品〈マルタ/フィンガーペインティング〉の場合、見ているものは、黒く塗られたキャンバスと、その上に捺された彼の白い指紋だけです。この黒い面とその上に反復された白の符号に人の姿を見てしまうこと。そして、描かれた白を地として、描かれなかった黒を中心に像を認識していること。こうした認識の不思議に気づいたとき、私たちは、見るという、普段無意識に行っていることが、実に豊かな可能性を秘めていることに驚かされるのではないでしょうか。*リサ・ライオンズ「チェンジング・フェース-チャック・クロース年譜」チャック・クロース展カタログ フジテレビギャラリー1985
徳島県立近代美術館ニュース No21 Apr.1997 所蔵作品紹介
1997年3月
徳島県立近代美術館 安達一樹
1997年3月
徳島県立近代美術館 安達一樹