徳島県立近代美術館
学芸員の作品解説
ルイズ・ニーヴェルソンの肖像
1981年
(本体)鉛筆、油彩 木、石膏 (背景)キャンバスに着色
137.2×183.5×198.1
エスコバル・マリソル (1930-)
生地:フランス
データベースから
マリソルルイズ・ニーヴェルソンの肖像
他の文章を読む
作家の目次 日本画など分野の目次 刊行物の目次 この執筆者の文章
他のよみもの
所蔵作品選1995 毎日新聞 四国のびじゅつ館

エスコバル・マリソル 「ルイズ・ニーヴェルソンの肖像」

安達一樹

 四角い壁を思わせる漆黒の背景、その前の低いテーブル状の台に背筋をすっと伸ばして座る老女。その姿勢と鋭いまなざしは、ルイズ・二ーヴェルソンという人物の風格をよく示しています。
 二ーヴェルソンは、1899年にキエフに生まれ、6歳でアメリカヘ移住、1988年にニューヨークで亡くなった女性の彫刻家です。その作風は、さまざまな形の物が中に配された同じ大きさの四角い木の箱を積み重ねて棚状と成し、それらが全体に単一の色、主に黒で塗られているというものです。1960年代から晩年まで現代アメリカを代表する作家として活躍し、男性社会であった当時の美術界で認められた数少ない女性作家の一人です。
 エスコパル・マリソル(1930~)は、この作品を、1981年の「芸術家たち(Artists & Artistes)」の連作を発表した個展に、美術の分野ではジョージア・オキーフやマルセル・デュシャンなど、その他、舞踊のマーサ・グラハム、文学のウィリアム・バロウズなどの人物像とともに出品しました。
 これらの人物は皆マリソルのよく知っている人物だといいます。二ーヴェルソンも同性の彫刻家として大先輩であると同時に、長年にわたる友人でした。このような肖像彫刻を作ることについてマリソルは、「私が彼らの作品を良く知っていてそれに共鳴し感動したためばかりではなく、彼らの持つ人格、すなわち人間性そのものに魅力を感じるからで、その気持ちや感情を何らかの方法で率直に作品の上に反映させ表現してみたいと考えるからです」と語っています。ところで、この「芸術家たち」の連作では、初期の作品にはあまり見られない、モデルが座ったポーズがとられています。これはマリソルが、年をとった人には座るためのしかるべき特別な場所があるべきだと考え、またこの肖像の連作を通じてその考えを伝えようとしたためです。マリソルは写真をもとに制作をしますが、この二ーヴェルソンのポーズは、マリソルが写真を撮るために二ーヴェルソンのアトリエを訪れたときに、二ーヴェルソン自身が選んだものだといいます。
 二ーヴェルソンの作品を示唆する黒いパネルの前に、二ーヴェルソンを、いかにもマリソルらしい直方体と具象的な部分の組み合わせや立体とペインティングの混用などの方法で造形し、モデルと作家の両方の人間をほうふつさせながら、一つの作品として森厳な世界を作り出しています。この作品は、まさに肖像彫刻のだいご味を楽しませてくれる1点です。
徳島新聞 美術へのいざない 県立近代美術館所蔵作品〈26〉
1994年2月18日
徳島県立近代美術館 安達一樹